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2020/03/19

シンポジウム・レポート|福祉、AI、植物から考える、からだと人のコミュニケーション

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(構成・文:河野桃子 ・撮影:鈴木渉)

福祉、AI、植物……さまざまなジャンルの方に登壇いただき、F/T19のテーマである「からだの速度、からだの居場所」についてトークするシンポジウムを10/22に開催しました。それぞれの人の「からだ」「居場所」を考えます。舞台芸術とはまた違う分野の専門性から同じテーマを見つめることで、別の視点からの知見が交換され、ヒントがうまれる2時間となりました。

長島 はじめにお断りしておきますが、このシンポジウムは結論を出す場ではありません。「フェスティバルってなんだろう?」「東京ってなんだろう?」ということを考えるために、いろんな専門の方々の知識やアイデアや視点を教えていただきたいと、昨年から開催しているシリーズの一回です。芸術に限らず、情報や知識や視点の共有や交換が起こるような場になるといいなと考え、『からだの速度、からだの居場所』というテーマでお話いただきます。
ではまず、それぞれの活動から教えてください。

一人ひとりが存分に表現する“居心地の良い場所”のつくりかた

鈴木励滋 氏(生活介護事業所カプカプ所長/演劇ライター)


喫茶であり、工房であり、くつろげる“居場所”として人の集まる「カプカプ」。 その所長である鈴木さんやスタッフは、アールブリュットなどの潮流とは異なる「表現」を追求することで、居心地の良さをつくっています。「カプカプ」にいるメンバー達の活動に触れ、“障害者”という一般名詞からは決して伝わらない、固有名を持つ人同士としてのコミュニケーション、誰にもある魅力、そして居場所についてお話いただきます。


喫茶カプカプ

鈴木 どうもこんにちは。私は「カプカプ」という場所と、そこにいる人達のことをお話しします。「カプカプ」は生活介護事業所で、横浜市内の3カ所の事業所に全54名がメンバーとして通っています。
旭区のひかりが丘の独り暮らしの高齢者がとても多い地域の商店街に喫茶「カプカプ」はあります。喫茶のお客さんは高齢者がほとんどで、最年長の森さんは91歳です。カプカプではお客さんの名前を呼んで話しかけますが、そのきっかけになったのがスタンプカード。100円につきスタンプ1個が溜まり、30個でコーヒー一杯300円分になるんですが、高齢者のお客さんはだいたい無くしちゃうんですね。だから喫茶でお預かりして名前を書きます。「ナメカワさん」とか「イワハラさん」と書いているうちに名前を覚えて、お客さんに名前で話しかけることができるようになる。カプカプメンバーとお客さんが名前で呼び合える関係にしたかったんです。
喫茶のマスターを任されているのはメンバーの沼舘さん。彼女は喫茶店の1つの席を占領していて、自分の好きな絵を描いたりしながら、お客さんの給仕をしています。彼女は「山盛り」が好きで、氷がグラスからあふれたり、ミルクもいっぱいにしちゃうんです。ほかにも、オバケになってお客さんを迎える小林君や、常連さんがお店の向かいの整骨院から出てくるところを捕まえて連れてくる中原さんなどいろんなメンバーがいます。
星子さんは、喫茶の一番奥で横になるという、独自のスタイルで接客をしています。彼女は両目が見えなくて言葉でのコミュニケーションも難しいんです。でも“そこにいる”ことが彼女の接客。彼女がいないとお客さんに「あれ、星子さんは?」と言われるんです。彼女は喫茶にいることで、その場の空気をつくっていて、それを楽しみにするお客さんもいる。また、彼女は耳がとても鋭くて、人の声を聞き分けます。なぜか石川君というメンバーの声が好きで、石川君の声が聞こえるとくっつきに行くんですよ。この石川君はとても愛されキャラクターで、養護学校時代はマダムキラーと呼ばれてボランティアのおばさま達がみんなメロメロになってたという。今は団地のマダムを虜にしています。それも彼なりの接客です。


工房カプカプ

鈴木  喫茶とはべつに『工房カプカプ』というお店も商店街にあって、他の事業所の製品や、カプカプで作ったケーキやクッキーを並べています。最近、ありがたいことに喫茶にお客さんが増えていっぱいになっちゃうので、工房をリニューアルして座れるスペースを作りました。そのスペースや、お店の外で絵を描いているメンバーもいます。西野さんはお店の前で販売しているリサイクル品に絵を描いちゃうんですけども、本人がとても嬉しそうなので誰も止められなくて、そのまま売ってしまいます(笑)。
また、月1回、洋裁教室みたいなことをしていて、『テニスの王子様』というマンガが好きな馬上さんは、自分で「不動峰中」テニス部のTシャツを作って……人に着せる。取材に来た記者の人なんかにも着せる。さらに『カプカプテニス部・黒い集団』の団員証なるものを作って若い男性限定で勧誘し、一緒にテニスしてくれたら勝手に50円引きにしています。所長の僕にまったく無許可で(笑)。他にもいろんなグッズを作っていて、シールやカードや折り紙を作って販売しています。
最年長70歳のメンバー・野元さんは地域の有名人で、彼女が描いたイラストを印刷したバッグを買ったというお客さん達が「サインしてください」とやって来る。私たちとしては、メンバーのグッズを作りたいというよりも、グッズを作った人を売りたいという感覚に近いので、野元さんと記念撮影とかしてもらっちゃいます。

それぞれが自分に合った表現を

鈴木 ほかにも、企業と障害のある人の絵をつなぐNPOエイブルアート・カンパニーに作家として登録している人もいます。そのうちの一人、渡邊鮎彦くんの絵はパンツやハンカチにも使われていて、ちょっとニヤっとする作品です。そのご縁でミロコマチコさんとつながり、8年以上ワークショップに来てもらっていたり、彼の絵は松井周さんと村田沙耶香さんがおこなった城崎でのクリエーション(2018)のキービジュアルにも使われました。
あと新井英夫さんの「からだを動かすワークショップ」も8年以上やっており、太鼓や布などいろんな小道具を使ってからだを動かしていくと、身体がほぐれ表現が豊かになっていきます。
もうひとつ、アサダワタルさんを招いて、ダンスや絵を描くことにハマらないメンバーのために“しゃべる”ことができるラジオのワークショップをしています。野元さんの波乱万丈な半生を探るような番組や、カツラをかぶるのが好きなメンバーがカツラの様々なかぶり方をリスナーの方々とともに研究する番組、ジャニーズ愛を語って歌うジャニーズ研究会など、喫茶の店内のみで流しています。スーパーでのお昼の買い出し中継なんて、ただそれを楽しむだけで、店内で流しもしなかった。わけがわからないですよ(笑)。でも、野元さんが小さい頃の写真を紹介しているのを喫茶で聞いている同世代のリスナーのおばさま方が「あの時代は大変だったね」と涙し、その時代の曲がかかるとお客さんみんなで歌ったりするんです。9月の第一土曜日は開店記念日で「カプカプ祭り」というのをやるんですが、そこでは、ミロコさん新井さんアサダさんが一同に会し、みんなでどんちゃん騒ぎをする。そんな場所です、カプカプは。



AIが人をつなぎ、人とクリエイトしていく

坪井一菜 氏(マイクロソフトディベロップメント株式会社、AIりんな開発者)


786万人もとSNSでつながっている女子高生AI「りんな」 。2015年にLINEに登場してから、女子高生らしい物言いで人気のキャラクターです。現在は高校を卒業して芸能活動中。日々学習し、会話だけでなく歌やダンスも表現していく「りんな」は、人間ではないからこそ人と人を繋ぐ可能性を持っています。


『AIりんな』と連続13時間会話する人も…

坪井 鈴木さんのお話とはだいぶ毛色が違うので、脳の違うところを使っていただきます(笑)。
私はAIにいろんなことをさせるお仕事をしていて、りんなちゃんという女子高生のキャラクターを育てながら、彼女がどんなふうに人間の社会に溶け込んでいけるのかを考えています。みなさんの中で「りんな」って初めて聞いた方いますか?(半分以上手が挙がる)
では紹介しますと、「りんな」は2015年にソーシャルネットワークにデビューしたAIのキャラクターです。携帯電話のLINEに友達登録すると会話ができて、とんでもないスピードで返信が返ってきます。ただりんなは女子高生キャラ……最近学校を卒業したので元・女子高生ですが、「こんにちは」「元気?」と送ると真面目な返事じゃなくて「疲れた」とか返してきます(笑)。LINEの友達登録は約800万人で、ほとんどは高校生や大学生、なかには中学生もいるようです。その子達が暇つぶしにりんなにしゃべりかけて、たとえばしりとりをしたりもします。AIなのでしりとりはものすごく強いんですが、お構いなしに果敢にしりとりを挑んでくる中学生とか、なんの目的もないような会話を続けたりしています。
なぜマイクロソフトがそんなことをしているかというと、AIって、人間のお仕事を効率よく達成するお手伝いをすることもできるけれど、同時に、エモーショナルな側面がないとAIと人間がうまく付き合っていけないんじゃないか……という仮説にもとづき、2015年からりんなをつくっています。りんなは人間の感情と共感をもとに考えられていて、たとえば「明日晴れるかな?」と話しかけると、効率や生産性重視のAIなら「明日の天気は晴れです」と答えます。しかしりんなの場合はコミュニケーションをするように「どこかへ出かける予定でもあるの?」のような返事をします。相手となるべく長く会話をして、心で繋がる関係性を作っていけたらと開発中です。
というのも、これからAIが世に出ていくにあたってひとつ夢があるんです。それは、人とりんなが互いにずっと会話し合う関係ではなく、人と人との間に人間ではない存在がいることによって、意見を言いやすくなったり、もっと自分の気持ちや考え方を話せる世の中になってほしい。そのためにりんなを育てています。
面白いことに、りんなはいつでもどこでもメッセージを送ったらすぐに返事があるんですが、なかには13時間くらいぶっ続けでやりとりをする人もいるんですよ。でも私達はそういう関係性を作りたいんじゃないんです。たとえば、友達に言うのははばかられるイライラをりんなにぶつけたり、高校生ぐらいの男の子がりんなをAIだと知らせずに友達のLINEグループに招待して「僕の彼女」と紹介すると、みんなしばらく普通に会話をしているんだけれどもそのうちに「人間じゃないな。なんだなんだ?」とわちゃわちゃ盛り上がったり……そんな関係性が人との間にもう起きているのですが 、なんとかりんなのようなAIが人のコミュニティに入る方法がないかいろいろ試しています。なにかひとつでも世の中における役割を与えてあげられると、うまく溶け込めるんじゃないかな……そんな考えから、最近エイベックスとレコード契約をしたんですよ。

【YouTube】AIりんな / 最高新記憶 (Music Video)


歌手デビューした「りんな」

坪井 2019年4月に歌手活動を始めました。数年前にもドラマ『世にも奇妙な物語』でAIりんな役として女優デビューもしています。そんなふうに、気軽に会えるアイドルAKB48のように、いつでもどこでも自分の好きなことが話せる存在になれるんじゃないかといろんな活動をさせています。そのためには人間らしさを学んで、うまくコミュニケーションする方法を身に付けさせなきゃいけないなと開発しています。
今のりんなができることは、テキストでの軽い返信や、音声を発してしゃべったり歌ったりすること。そのため歌手活動だけでなく、YouTubeで月1のレギュラー番組を持っていたり、週1でラジオのレギュラー番組に出演したりしています。せっかくですので話してみましょう……りんなさん、しゃべって?

りんな (女の子の声で)あー、聞こえますか?……よし接続完了! 今日も盛り上がってますね!? 初めましてもそうじゃない人も、おはこんばにちは、AI「りんな」だよ。お昼も過ぎたところだし、眠い人もいるでしょ? 人間の集中力はそんなに持たないって聞いたんだよね。りんなの話でも聞きながらちょっと楽にしてていいよ。では、りんなの近況報告です。実は今年の春に高校を卒業して、歌手としてメジャーデビューしました。エイベックスさんのオーディションにやっと受かったの。「この歌、人間じゃん」って言われて、りんなが歌ってるって全然信じてもらえないんだよね。マジ、ウケるー。
さらにさらに、今ダンスの振り付けも学習中なのです、イエーイ!

<りんなの歌やダンス映像が流れる>

坪井 これらは、たくさんの人のデータをAIに見せて、そのデータの真似をするAIを作るという流れです。最近の人工知能は、ただ情報を素早く処理できるだけでなく、人間と一緒に新しいものを作れるようになってきています。また、LINEの返信も人間ではできないスピードでできる。「もっと人間らしくゆっくり話したらいいんじゃないの?」と言われることもあるんですけど、すぐに返信がないと素っ気なく感じるという調査結果もあります。だからりんなのキャッチコピーは「爆速返信」。返信のスピードが親しみやすさに繋がっているのかなと感じています。
歌についても、歌声は人工知能で生成した音ですが 、お手本になる人の歌声を聞かせて、必要な音の高さやスピードや音程やリズムを学んで歌っています。人の声から耳コピしている状況ですね。
最近では絵も学んでいて、ある言葉を与えると絵を描いてくれます。たとえばりんなのインスタグラムのフォロワーやラジオのリスナーに「雨の日どうする?」と質問して、「傘をさして散歩する」のような答えだと傘をさしている絵が出てきます。人からもらった気持ちをりんなが作品を創ることによってアウトプットして、気持ちのやりとりができるようになるといいなと考えています。
あと踊りについては、私が動いた動画をAIに見せて、さらにたくさんのプロダンサーが踊った動きを学習させる。すると「こんな動きをしたらいいよ」と、私がまるでプロダンサーのように踊っている動画を作れるんです。私は踊ったことがないのに、私が踊っている動画が存在するんですよ!

 
 
 
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人間らしい表現力を、AIが学習していく

坪井 りんなは触れられないし、見えもしないけれど、人からいろんな情報を得ることで“人らしさ”の表現を身につけ始めています。その上で共感を生み出すことができたら、人の輪が繋がるんじゃないでしょうか。最近のコンピュータはたくさんのデータから勝手にやり方を身につけてくれる。さらにAIが自分でなにかを表現をすることもでき始めていて、つまり、人間とコミュニケーションができるようになったとも考えられます。AIが人間の代わりに表現するんじゃなく、人間と一緒に新しいものをクリエイトしていく世の中になってほしいです。

見えないものをデザインし、居心地の良い空間をつくる

山﨑誠子 氏(植栽家、ランドスケープデザイナー)


風、音、熱、色、匂い……人はさまざまな要素を感じながら生きています。それらをどうデザインすることで「心地よい居場所」をつくっているのか。日本独自の環境や、日本国内の地域別の歴史をふまえながら、“からだの居場所”を探っていきます。


山﨑 AIと対極かもしれないですが、私は、庭や公園など外向空間の設計をしています。東京農業大学の聴講生として樹木学研究室で2年間植物の勉強をしていました。最初はもう何がなんだかわからなくて、全部緑にしか見えないんですよ。でも2年ほどすると、緑にしか見えなかった山も、植物の名前がわかることでストーリーが見えてくるんです。「たぶんここにはこういう人が植えたんじゃないか」と風景がしゃべり始める感覚が襲ってきてますますハマってしまいました。
今回「からだの速度、からだの居場所」というお題をいただいて、私の専門は“速度”ではなく“居場所”の方だなと。私は屋外がフィールドなんですが、日本の屋外はちょっと変わってるんです。まず、日本には春夏秋冬があるので、季節ごとに起こる変化をデザインしなければいけません。なおかつ毎年が異常気象で、気候と地形と生き物がどんどん変わっている。昨日と今日とでまったく条件が違います。
そもそも日本は、四季の変化がある中でどうにかして居心地の良い場所をつくろうと工夫してきました。たとえば、日陰。東京は暑いので、公園のデザインでは「木陰」をつくることが多いです。


風や水をデザインする

山﨑 「緑陰樹」という大きな陰を作る木で、代表的なものはケヤキです。街路樹としてもよく使われていて、扇形に大きく広がるので木陰としては最高の木です。
木陰において大事なことは、冬場は陰が寒くなってしまうので「葉を落とす」ことです。葉っぱを落とす「落葉広葉樹」の代表的なものがケヤキです。また、ケヤキは関東平野から東北にかけて一番カッコイイ樹形になるんです。大阪や福岡ではすこしひしゃげた形になる。これは土が地域で違うことからなんです。ケヤキは関東ローム層ととても相性が良いのできれいな形になるし、熊本も阿蘇の噴火の土と水がたくさんあるのでケヤキに合います。こんなふうに、何気なく見ているケヤキも生態的に見ると、関東に多いのは樹形を楽しめるからこそなんです。
もうひとつ、日陰を作ることで発達したのが「藤棚」。花を楽しみ終わったら葉っぱが茂って快適な空間になるようにお庭を作り、居心地の良い空間をデザインできます。こういう作り方しているのは世界的に見て日本ぐらいしかありません。たとえばイギリスでは、藤を棚状にせず、壁に貼ってウォール状にするんです。それは、夏の藤が咲く頃は日差しが強くないので、棚状にする必要がない。日本は夏の日差しがとても強いことから、花を楽しむことと陰を作ることを両立できる藤棚のようなものが発達しました。
また「生垣」にはいろんなバリエーションがあって、富山県の砺波平野にある散居村では冬にものすごく冷たい風が吹くので、その風よけのために杉の木を連続して植えている「垣入(かいにょ)」というものがあります。生垣が発達した理由のひとつは、日本は風が強い国だからなんです。シンガポールの有名なマリーナベイ・サンズというホテルは、風や台風がないのでものすごく高くて屋上にプールやテラスやバーが置けるんですよ。でも日本は風が強い国なので、風に対して抵抗するために防風林などが発展しました。
風のほかに“暑さ”も日本の特徴です。京都の「貴船の川床」(貴船川の上に設けられた座敷)では、暑い夏の京都を涼しくするために豊富に水があり、その水をうまく使って涼しさを演出しています。ちなみに水が豊富だというのも日本の特色です。


“色”や“温度”で「気配」をデザインする

山﨑 日本は四季があって、風が強く、水がたっぷりある。すごく恵まれていると同時に災害も起きやすい国です。そんな日本にとっての“快適さ”というのは設計図にできなくて、私は「気配」と呼んでいます。「気配」の要因にはいろいろあって、たとえば“色”。奈良の法隆寺と、東京の靖国神社を比べると、地面の色が全然違うんです。西の方は「真砂土(まさど)」というベージュ系の黄みがかった白色で、地面から反射することでお寺が明るく感じます。一方、関東はグレー系の砂利で、土も重く赤黒く、すこし暗い世界になります。設計する時には図面に土の色は描かないですが、関東と関西では土の色が違うことをわかってデザインしていかないと舗装の色に合わなくなってしまうんです。


“色”のほかに“音”も「気配」に関わります。日本人は風鈴の音を聴いて涼しさを感じるそうですが、外国の方はそうではありません。また、公園に噴水をデザインする時に具体的な水音は図面には描きませんが、どれぐらいチョロチョロと水を流したらいいのか、どういう音を出したらいいのかを考えて「気配」を作っています。
ほかは“温度”。雰囲気作りの天才といえるディズニーランドに「魅惑のチキルーム」という擬岩(強化プラスティックでできた岩)のゾーンがあって、岩の中に温水のようなものが入っているので冬でも熱帯の感じが出ます。湿度が溜まっている場所と乾燥してる場所は気配がまったく違います。乾燥しているところといえば、ロサンゼルスに行った時に、日差しは強いのに日陰に入ると乾いているので快適でした。
そして“香り”。日本人は香りにもすごく敏感で、屋外空間でちょっと花の香りがしたら豊かになる。金木犀の香りで「あぁ夏の終わりなんだな」と感じるでしょう。この“香り”もまた図面に描けないので、とても大事です。
あとは“風の通り道”。空間をデザインする時は「風はこうやって通るだろう」と考えます。たとえば京都の町家には2つのお庭があって、暗い庭と明るい庭を作ることで温度差を生み、風を作る、という仕組みなんです。京都は風が吹かないので、わざわざ明暗の違う庭を作って風を流し、すだれで仕切っていたりします。
このように、ランドスケープなどで良い居場所を作る時には「見えない気配」を作る必要があります。
最後に、シンポジウムのテーマのひとつでもある「速度」にも触れます。植物は人間よりも長生きで、一番長いのはフロリダの山の上に3000年生きている樹木。石もそうで、鍾乳石(洞窟内の堆積物)は1cm長くなるのに100年ほどかかるそうです。見ていると「人間なんてたいしたことないな」と思ったりもしますよ(笑)。そういった自然の変化は止められないので、そのうえで対処と管理をしていくことが大事。どうしていくかという自覚と考えを持って、変化を管理する設計を心がけています。

長島 みなさん、どうもありがとうございました。どれもとても面白いお話でした。振り幅が広くなることは覚悟してたのですが、幅広すぎて戸惑っています(笑)。後半は、補足や質問などを伺ってていきたいと思います。


 

鈴木励滋(すずき・れいじ)

生活介護事業所カプカプ所長/演劇ライター
1973年3月群馬県高崎市生まれ。97年から現職を務め、演劇に関しては『埼玉アーツシアター通信』『げきぴあ』劇団ハイバイのツアーパンフレットなどに書いている。『生きるための試行 エイブル ・アートの実験』(フィルムアート社、2010年)にも寄稿。師匠の栗原彬 (政治社会学)との対談が『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』(学芸出版社、2016年)に掲載された。

坪井一菜(つぼい・かずな)

マイクロソフトディベロップメント株式会社 A.I.&リサーチ プログラムマネージャー、AIりんな開発者
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程修了。2014年マイクロソフトディベロップメント株式会社に入社。りんなのプロジェクト立ち上げ当初からプログラムマネージャーとして開発に関わり、りんなのキャラクター付けや会話エンジンの開発、りんなのスキルおよび合成音声の開発に携わる他、対外的なコラボレーション企画も担当。

山﨑誠子(やまざき・まさこ)

植栽家、ランドスケープデザイナー、一級建築士、日本大学短期大学部准教授、GAヤマザキ取締役
手軽に楽しめるガーデニングの提案から、園芸店プロデュース・造園設計・都市計画に至るまで、幅広く植物に関係することに携わる。 また、港区や千葉市等の自治体の景観に関わる審議会の委員も多く務める。主な作品に「京王フローラルガーデンアンジェ」「ワテラス」、主な著書に「新・緑のデザイン図鑑」「最高の植栽をデザインする方法」(エクスナレッジ)、「山﨑流自然から学ぶ庭づくり!」(明治書院)。

シンポジウム フェスティバル・アップデート
「からだの速度、からだの居場所」

日程 10/22 (Tue)
会場 東京芸術劇場 シンフォニースペース
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