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2020/10/29

よりシンプルにわかりやすくなっていい。 ──村川拓也インタビュー

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(聞き手・構成:宮崎敦史/撮影:鈴木渉)

フェスティバル/トーキョー(以下、F/T)には2012年以来、8年振りの参加となる村川拓也。筆者はF/T12のダイアローグ企画「Blog Camp in F/T」に参加した際に、村川氏へのインタビューを実施し、演劇に対するスタンスを聞いた。今回はこの8年の間で起きた出来事、『ムーンライト』の制作プロセス、今後の展望についてあらためて話を伺った。


──今回は2つの期間に分けて話を聞かせてください。ひとつ目は2012年から『ムーンライト』初演(2018年)までの間とし、村川さんの中で印象に残っていることを伺った上で、どのような経緯で『ムーンライト』制作に至ったのか。二つ目は『ムーンライト』初演から今回のF/T参加に至るまでの間で、主に再演についてお話を伺いますので宜しくお願いします。まずは2012年以降、村川さんの中で印象に残っている出来事や、思考の変化などがあれば教えてください。


村川 演劇に対する姿勢は2012年のインタビュー内容から変わっていません。ただし、自身の環境には変化がありました。実は14年に結婚し、18年に子供が生まれ、20年8月に二人目の子供が生まれました。12年頃は岡田利規さんの様にステップアップをしていきたいと考えていましたが、そのためには演劇に費やす時間を増やさなければいけません。でも、どこかのタイミングで自分の能力や生活とのバランスを見て、自然と諦めていました。言い換えれば、世界中から求められる演出家ではなく、身近な題材と人たちで作品を作り、興味を持ってくれる人に届けるスタンスを模索するようになりました。身近な人たちには積極的に作品を届けたいと思っていて、『ムーンライト』が完成した時もF/Tディレクターの長島確さんに上演する機会がないか相談しに行ったりしてました。

──いくつか作品を作られている中で、特に『ムーンライト』を人に見て欲しいと思った理由はありますか。


村川 KYOTO EXPERIMENT 2017で『インディペンデント リビング』という作品を上演したのですが、自分の納得がいかないまま終わってしまい、一時期は演劇を辞めることまで考えていました。その際、改めて演劇を勉強し直そうと思い立ち、地点の三浦さんに相談したところ、三浦さんから「明日から来い」と言って頂き、しばらく地点の稽古場に通っていました。この経験がとても勉強になり、気づけばあれやこれや考えていた事がそぎ落とされた感覚になっていました。つまり、自分の中にあるものを見直して、落ち着いてやればいいことに気づいたのです。その後、『インディペンデント リビング』はドイツのブラウンシュバイクで開催されるテアターフォルメンで再演する機会を頂いたのですが、初演10日前に現地入りし、一つ一つ丁寧に点検する感覚で調整をしたところ、自分の中で納得できる作品が出来ました。ブラウンシュバイクという環境にも恵まれたと思います。目の前で起きている出来事をまっすぐに見てくれる雰囲気があって、観客と作品が一体になる感覚を得ました。その結果、抽象的にして観客に考えてもらう作品よりは、ダイレクトに起こることを一つ一つ見てもらって、シンプルで分かりやすい作品を作っていきたいと思うようになりました。この経験を色濃く反映できたのが『ムーンライト』でした。

──これまで村川さんの作品を観てきた方々から『ムーンライト』を観た感想はありましたか。


村川 「どーゆうこと?」って言われました(笑)。自分の作品には演劇の構造を使ったコンセプチュアルなイメージを持たれている方が多いと思うのですが、『ムーンライト』は非常にオープンな作品、つまりストーリーに裏が無く、観客にとって非常に分かりやすい作品なので、これまで自分の作品を観て頂いた方々には困惑に近い印象を持たれたのだろうと思います。ただし、自分の中で変わったつもりは無く、自分の中で「人間が生きていることを人を描きたい」という想いは昔から一貫していて、ただ手法が分かりやすくなっただけだと思います。その分かりやすさが要因だと思いますが、『ムーンライト』の反響は大きかったですね。

『ムーンライト』より

『ムーンライト』より 撮影:前谷 開


──反響については意識されているのですか。

村川 『ムーンライト』を終えて、反響あってこその作品だと考えるようになりました。これまでの作品はやりっぱなしで終わってカッコつけていた部分があったと思うのですが、今はすごく反省しています。良くも悪くも感想を言いに来てくれることは大切ですし、反響がないものは作品と呼んでいいのかとまで考えるようになりました。『ムーンライト』は自分の作品に対する向き合い方、そして演出家としての振る舞い方を変えたきっかけになった作品なので、単純にまた見て欲しいという想いに至り、長島さんに素直に相談できたのだと思います。

「反響」をつくることから

村川拓也

──この作品では、演劇研究者で翻訳者の林立騎さんがドラマトゥルクとして参加されていますが、林さんとはどのような経緯で出会ったのですか。

村川 林さんとの出会いは衝撃的で、非常に影響を受けました。当時ロームシアター京都に在籍されていた武田(知也/本作のプロデューサー)さんが、この作品も含め、「CIRCULATION KYOTO – 劇場編」で上演する作品には全てドラマトゥルクを付けるという提案をされ、林さんを紹介してもらいました。林さんに対しては非常に怖いイメージを持っていたのですが、居酒屋に行ってお酒を飲みながらいろんな話をしていくうちに打ち解けました。林さんの姿勢は圧倒的に普通というか、多くの人に観に来て欲しいから近所のお店にチラシをばら撒いたり、作品を作る上で筋の通らないことが起こった時は徹底的に抗う姿を見て、色々と学ばせて頂きました。昔は遠い存在だったのが、対話を通して徐々に身近な存在になっていきました。また作品を作る時は終始同じ距離感で接してくれるので、それは非常にやりやすかったです。

──林さんとは具体的にどの様な関係で作品を作っていったのでしょうか。

村川 林さんは制作を進める上での相談相手になってくれつつ、パンフレットも作ってくれました。パンフレットを作った理由として、林さんは「村川さんの作品を論じる文章が少なすぎる」という考えを持っていたからです。私自身も作品ごとに文章を残すことは作品に対する理解も深めて頂けるし、アーカイブにもなるので非常にありがたいなと思っています。

──テキストでもしっかり伝えることで反響を受け取ることが作品を作る一連の行為であるということですね。これまでつくってきた中で、印象に残っている反響はありますか。

村川 『ツァイトゲーバー』※1をベルリンで上演した際、ハンス=ティース・レーマンさんとアフタートークをしたのですが、帰りがけに「次の新作は、自分の作品の中で最もコンセプチュアルな作品(『エヴェレットゴーストラインズ』の初期案)になりそうなのですが、コンセプト過多と感じないか?」と相談したところ、「君は感情とユーモアを大切にするから、コンセプチュアルな作品を作っても問題ない。」と言って頂き、とても力になりました。また、佐々木敦さんが『エヴェレットゴーストラインズ』上演後にSNSで、「村川の作品はコンセプチュアルであることだけに満足せず、演劇の時間の流れをしっかり作るから良い」とコメントしてくれたことが嬉しかったです。

──お二人から頂いた反響は、村川さんの作品に影響を与えていますか。

村川 今でも作品をつくる上で、感情と時間の流れを必ず考えています。出演者がどの様に舞台上の時間を過ごしていくか、そのことを考える頼りとなるのが出演者の感情です。ある行為をした後にどのような行為につなげるべきかを考える際、出演者の気持ちの変化を踏まえて作り上げていきます。でもこれは、出演者にとって本当の感情という場合だけではなくて、私が勝手に出演者の感情を想定して考えているところもあると思います。出演者の感情とギャップがあるという意味では、フィクションを作っていると言ってもいいのかもしれません。

──『ムーンライト』を制作する際、どのようにして感情の流れを作っていったのでしょうか。

村川 出演者である中島昭夫さんの家に通い、74年間の人生をカメラの前で話して頂くことから始めました。構成は記録映像を編集しながら作っていったので、1本のドキュメンタリー映画を作っていくような感覚に近かったです。映像に合わせてピアノの曲を合わせてみたりしながら、詳細を詰めていきました。稽古の代わりに映像を編集しながら構成を考えたのは初めての試みです。

村川拓也

──作られた映像と、実際にできあがった作品とでは、どの程度ギャップがありましたか。

村川  できあがった映像の音声部分を中島さんに聞いてもらったのですが、普段は話が飛びがちな中島さんが、編集されたものの中では綺麗に話し過ぎていて、リアルとのギャップがあることにつまらなさを感じてしまい、途中で再生を止めました。結局、ざっくり話す内容だけ決めておいて、後は即興で話すことにしました。

──即興でインタビューをする形式は、上演回数を重ねるごとに内容が変わりそうですね。村川さん自身が舞台に上がってインタビューをするという形式は初めてですか。

村川 『エヴェレットゴーストラインズ』のBバージョンとして位置付けている作品では、私のドキュメンタリー映画の先生であった佐藤真さんの教え子に対してインタビューしたのですが、この形式がうまくいったので、『ムーンライト』でも違和感なく取り入れています。

──それでは2018年の『ムーンライト』初演から現在に至るまでのお話を伺います。

村川 『ムーンライト』終了後に『Pamilya(パミリヤ)』という高齢者施設での介護を扱った作品を作りました。『Pamilya』は『ツァイトゲーバー』と同じ手法を用いていますが、構成はより分かりやすくなっています。『Pamilya』は2020年2月に福岡市で上演したのですが、当時はコロナ・ウィルスの影響が騒がれた頃だったので、公演の判断が難しい時期でした。自分の中では延期だと決めていましたが、ゲネプロを観て開始10分後には予定通り上演しようと気持ちが変わっていました。その理由として単純に面白いものができたということと、この日に向けて作ってきたエネルギーをなくしてしまうのはもったいないと思ったからです。演劇に限らず、あらゆる作品は社会と繋がっていないとリアルなモノはできないと考えているのですが、この時は社会情勢に関係なく、たとえ観客が5人であっても絶対やるべきだという考えになっていました。作品とはそれほど独立したものであり、何事にも邪魔されないものであることに気づいた瞬間でした。実はF/Tでは『ムーンライト』と『Pamilya』の2本立てで上演する予定でしたが、コロナ・ウィルスの影響で上演が不可能になってしまったため、今回『Pamilya』については先行してトークイベントを公開しています。

『Pamilya』より

『Pamilya』より 撮影:富永亜紀子


──2020年2月は上演の判断が難しい時期でしたが、その後はほぼ全ての演劇が延期、もしくは中止になりました。村川さんは2020年3月以降どのように過ごされていたのですか。

村川 演劇のことは一切やっていませんでした。奥さんがアクセサリーのデザイナーをしているのですが、経営に関して他の商業施設同様にけっこう打撃を受けてしまい、そちらの対応に追われていました。加えて8月に子供が生まれたので、そこまではコロナ・ウィルスに感染しないように注意しながら過ごしていました。

───2020年8月以降、東京での再演に向けてどのような活動をされているのですか。

村川 『ムーンライト』のテーマは「地域と劇場」が根底にあります。東京で再演する際も、ピアノの発表会を行っている文化会館で、地域の人達に弾いて欲しいと思っていました。現在は東京でピアノを演奏してくれる出演者を探していますが、初演の時よりは動き回れないので、動き回らなくても出演者を探す方法を考えました。奇跡的に、素晴らしい出演者を見つけることが出来ました。

──今回のF/Tでは再演という形になりますが、初演から大きく変わるのでしょうか。

村川 再演を考え始めた当初は東京で上演することを意識していましたが、初演の映像を見直したら、かなり細かく作り込まれていたので、今は初演の構成を崩すことは難しいと思っています。多くの再演作品が同じだと思いますが、結局は最初に考えた構成に戻るんですよね。ただし、コロナ・ウィルスによって社会を取り巻く環境が変わったので、作品の内容は変わらなくても、観る側の捉え方は変わるだろうと思います。また、ブラックボックス型の劇場でやることの意味も考えています。よりフィクショナルな作品になる可能性はありますね。

──現段階で、『ムーンライト』再演が観客にどう捉えられるか、イメージされていることはありますか。

村川 劇場に入ってリハーサルをする段階ではイメージできるかもしれません。ひょっとしたら本番中に、話す内容が現在の状況とリンクする発見があれば、即興で修正することはありえます。

──それでは最後に今後の活動について伺います。

村川 これまで以上にフィクション色の強い作品を作ってみたいと思っています。長島確さんは、20世紀以降の芸術が本物のモノや人「そのもの」を提示することを指向してきたが、そろそろフィクションを再発見する必要があるのではないかと話していました。それはただ、現実の反動としてのフィクションではなく、現実を突き詰めた先にフィクションを作れないかという事だと考えています。かつて自分の作品に出演してくれた人にもう一度集ってもらい、例えば、『Pamilya』や『ツァイトゲーバー』に出てくれた出演者が同じ役柄で出演し、別の新しい作品をつくってみるのはどうかなとか、思考をめぐらせています。

──それは村川さんにしか作れない作品ですね。本日は長時間にわたり、ありがとうございました。

※1 F/T11公募プログラム参加作品。介護する/されるの関係が舞台上で再現される。被介護者役は客席から募られる。



村川拓也

 

(聞き手・構成:宮崎敦史/撮影:鈴木渉)

村川拓也

村川拓也

演出家、映像作家。映像、演劇、美術など複数の分野を横断しつつ、ドキュメンタリーやフィールドワークの手法を用いた作品を発表する。 介護する/される関係を舞台上で再現する『ツァイトゲーバー』(F/T11公募プログラム)は、HAU(ベルリン)の「Japan Syndrome Art and Politics after Fukushima」(14)を始め国内外で上演を重ねている。16年東アジア文化交流使(文化庁)として中国・上海/北京に滞在。18年ロームシアター京都「CIRCULATION KYOTO-劇場編」にて『ムーンライト』(助成:公益財団法人セゾン文化財団)初演。フェスティバル/トーキョーには『言葉』(12)以来の参加となる。京都芸術大学舞台芸術学科・映画学科非常勤講師。

宮崎敦史

1985年三重県生まれ。2012年のBlog Camp in F/Tに参加。現在は国際的な総合エンジニアリング・コンサルティング企業のArupに所属し、建築、都市に関するプロジェクト・マネジメント業務に従事。

この現実の中に、確かにあるものへ―。
過去と現在を重ね"生"に触れるドキュメンタリー・ドラマ
ムーンライト

ムーンライト
構成・演出 村川拓也
日程 10/31 (Sat) - 11/1 (Sun)
会場 東京芸術劇場 シアターイースト
  詳細はこちら

人と都市から始まる舞台芸術祭 フェスティバル/トーキョー20

名称 フェスティバル/トーキョー20 Festival/Tokyo 2020
会期 令和2年(2020年)10月16日(Fri)~11月15日(Sun)31日間
会場 東京芸術劇場、あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、トランパル大塚、豊島区内商店街、オンライン会場 ほか
※内容は変更になる可能性がございます。


概要

フェスティバル/トーキョー(F/T)は、同時代の舞台芸術の魅力を多角的に紹介し、新たな可能性を追究する芸術祭です。
2009年の開始以来、国内外の先鋭的なアーティストによる演劇、ダンス、音楽、美術、映像等のプログラムを東京・池袋エリアを拠点に実施し、337作品、2349公演を上演、72万人を超える観客・参加者が集いました。
「人と都市から始まる舞台芸術祭」として、都市型フェスティバルの可能性とモデルを更新するべく、新たな挑戦を続けています。
本年は新型コロナウイルス感染拡大を受け、オンライン含め物理的距離の確保に配慮した形で開催いたします。



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