個室都市 東京アーカイブ

12月20日(日)にF/TステーションでF/T09秋劇評コンペ優秀賞発表・講評会が行われました。
受賞者の皆様、おめでとうございます!


<優秀賞受賞作品>

柴田隆子氏 美しい静寂の地獄絵図 ―『神曲―地獄篇』 

堀切克洋氏 「本物」はどこにあるのか――『Cargo Tokyo-Yokohama』評

百田知弘氏 『あの人の世界』 劇評


追って審査員の皆様からの各作品・全体についてのご講評をアップいたします。
どうぞお楽しみに!

 池袋西口公園に建てられたプレハブ、これが『個室都市 東京』の舞台である。一般的なドア一枚分の入口の横には赤と黄色のロゴマークをあしらった立て看板、このロゴマークがとても印象的である。光が射してくる外界への脱出、といったイメージを喚起する緑と白の避難誘導のマークとは対照的に、外界からの避難先としてのイメージを与える。外界からの避難先、それこそがマンガ喫茶、個室ビデオなど「個室」に投影されるイメージなのかもしれない。そしてこのイメージこそがこの作品の大きな軸のようにも思える。

「個室都市 東京」は池袋西口公園に屹立していた。いや、とぼけた顔でおわしたのである。
のっぺりとした壁面の仮設プレハブの入口ドアを指し示しているのは、レトロな感のある電球を埋め込んだ矢印つきのスタンドサイン。赤の地に黄をあしらった対照色相配色がなんだか妙な元気さである。公園はざわついていた。風が冷たい。プレハブの窓から熱心にのぞきこんでいる老人がいた。噴水の近くで、待ち合わせをしていたらしい十代の男女数人のグループには「個室都市 東京」は関心の外のようだ。円柱を横倒しにした椅子に腰かける、肉体労働者と思しき人たちにとっても。

 すとーんと腑に落ちた。ここを通った時、後頭部の隅っこの方に潜んでいて、意識に上ってこなかった何かが――。
 
 「個室都市東京」は、東京都豊島区の池袋駅からほど近い、池袋西口公園でやっている。やっているといっても、何をやっているんだか、よくはわからない。なんだか、個室ビデオ店なるものを作ったのだという。私は、台本があって劇場(必ずしも劇場じゃなくても、テントでも野外でもいいのだけれどともかく会場)でやる、いわゆる芝居らしい芝居が好きなので、こういうドキュメンタリーっぽいというか、役者を使わない作品は得意ではない。でもちょうど池袋で時間が空いていて、話の種にというのもあったし、何なんだそれは?という好奇心もあって出向いてきた。

 東京は世界でも有数の「都市」だ。日本にいて東京を知らない人はまずいないだろう。政治経済の中心地として、文化情報の発信地として、皇居のある場所として、東京は特異な位置を占めている。しかし本当に我々は東京を知っているのだろうか。「東京」とは多くの街、地域の集合体であり、それ以上にイメージの集合体である。地形的には地続きであるにもかかわらず、発信するイメージは見事に異なる地域が隣接しており、その全体像を捉えるのは難しい。そもそも東京という都市は、見る人によって姿を変える万華鏡的な場所なのである。
 都市計画によるきらびやかなイメージ作りにもかかわらず、都市にはいつもいかがわしさがつきまとう。それは東京に限った話ではなく、世界中どこの都市にもみられ、いわばこの両義性の氾濫が都市の属性といっていいだろう。そして対立する項を支え両者ををつなぐのは、都市に集まる人間である。