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2019/11/01

ボーダーを越えるための「経験」を ──人とモノの移動を描く『To 通 ツー』

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(聞き手・構成 落 雅季子)

 マレーシア出身で、アーティスト兼カルチャー・ワーカーであるオクイ・ララと、アーティストでNPO法人ARDAに所属している滝朝子。フェスティバル/トーキョーが続けてきたアジア横断の試み「トランスフィールド from アジア」の企画の中で、レクチャーパフォーマンス『To 通 ツー』を上演するふたりに話を尋ねた。インタビューは日本にいる滝と、マレーシアにいるオクイをスカイプでつないでおこなわれ、国境を越えたクリエイションをダイレクトに感じさせるものだった。


──おふたりは以前から交流があったと伺いました。初めての出会いや、お互いの活動に関する印象を教えていただけますか?


オクイ  朝子とは、2017年に初めて出会いました。私は研究のために日本に来ていて、その時に共通の友人に紹介してもらったんです。最初は普通の友人という感覚で話していたけれど、共通の関心事がたくさんあったし、アーティストとして同じ想いがあるとわかって関係を深めていくことになりました。
 もともと私は、大学でメディアアーツを専攻していて、いろんな国から移住してきて働いている人々の顔を記録する作品を始めました。マレーシアのペナン島は、以前イギリスの領地だったので、その時代にインドや中国からの移民が増え、マレーシア独立前からのミャンマー移民が今も多く暮らしています。ベトナムからの人もいるかな。私自身も中国系の4世なんです。


──滝さんはロンドン芸術大学で学ばれたのち、現代美術のフィールドで活動なさっていますよね。アーティスト/アクティビストとして活動を始めたきっかけを教えてください。


  子どもの頃から、絵を描いたりすることが好きでした。貧困や環境問題にも興味を抱いていたんですが、それは母の影響だと思います。彼女はチャリティなどに参加していたし、人生において私にいろんなことを気づかせてくれました。ですが、自身がアーティストとして活動し始めるようになったもっとも大きなきっかけは、大学時代に経験した2011年3月11日の東日本大震災でした。あの時は本当に大きなショックを受けました。そこから、参加型プロジェクトを通してソーシャルイシューを考えるようになりました。また、多文化が混在する中にいる方が自分が楽なこともあり、活動の幅をひろげていって、自分なりに多文化のコミュニティでできることを探しています。


──今回、おふたりが一緒に作品をつくることになったきっかけはなんですか?


オクイ  私が、F/Tで作品を発表することになって、それならぜひ朝子と一緒に、と申し出たんです。お互い「移住」というテーマを通して、人間のアイデンティティを考えているので、移住者のことだけではなく自分たちがどういう立場であるか、一緒に考えたいなって。


──東京に暮らすエチオピア移民にフォーカスを当てたパフォーマンスになるようですね。


  はい。私がおこなってきた活動が元になっています。マレーシアにおけるミャンマー移民をテーマにすることも考えましたが、いま私がボランティアでおこなっているエチオピアのローカルコミュニティとの関わり……つまり日本に実際に住んでいる人のことを語る方が、観客に伝わるんじゃないかなと。東京の葛飾区にエチオピア移民たちが暮らすエリアがあるんですが、それってほとんど日本で知られていないので、ぜひ題材にしたいと思いました。


──オクイさんは、東京にエチオピアコミュニティがあることをご存知でしたか?


オクイ  2017年に朝子と出会った時に、日本にエチオピア人のコミュニティがあるという話を聞いてびっくりしましたよ。日本に住む韓国人やブラジル人の話は耳にしたことがあったけれど。


──今回のレクチャーパフォーマンス自体は何語でおこなわれますか?


オクイ  日本語、エチオピアで話されているアムハラ語、英語というマルチリンガルで上演します。


  すべてに字幕はつかないし、逐次通訳をするわけでもないんです。オクイが英語で言ったことを、私が日本語に直すということはあります。実は私の友人であるエチオピア人のゲストがラップを披露してくれる予定です。彼は日本に来て3年くらいかな。アムハラ語と日本語で歌います。彼とは、過去に二度ほど作品づくりに協力してもらったことがあるのですが、エチオピアから日本に来た人生の節目を、アイデンティカルなパフォーマンスにしてくれましたよ。


──オクイさんが今作に生かした、これまでのご自身のリサーチとはどんなものでしょうか?


オクイ  作品をつくりはじめる時に「ボーダー」という言葉について考えました。国境だけでなく人間と人間のあいだには見えないボーダーがある。それをどうやって見分けるか……。


  ボーダーと言ってもシャットアウトするためだけでなく、自分の考えやアイデンティティ、身を守るために、私たちは時に「壁」を必要としますよね。それは移住者だけじゃない。だからこの「ボーダー」という言葉をどう使うか考えています。日本語で言うと「ボーダー」はやはり「境界」っていう言葉が近いかな。


東京で他文化を感じる新大久保(撮影オクイ・ララ),2017

──劇場も、舞台と客席が隔てられています。おふたりがレクチャーしながら、そこを超えて観客に対して話しかけることもボーダーを超えるチャレンジですね。


オクイ  今回のレクチャーを通じてただ伝えるだけではつまらないし、情報になってしまうので、どうやって楽しくすればいいか? と考えています。お客さんが聞き流すのではなく心に残るように楽しく。だから、ラップを取り入れたりすることで相互的なものになればいいなって。


  観客とパフォーマーという「ボーダー」をブレイクすることは不可能ですよね。でも観客も参加することによって、境界があることそのものに気づいてほしい。観客も自分たちが観客だとわかっているからこそ、それを利用してどう参加してもらうか、立場を変えて考えてもらうことも大切だと感じます。


オクイ  そうですね。実は客席にエチオピアのスパイスが入った袋を回してみるようなやり取りも計画しています。香りなど、フィジカルな実感を伴った、よりインタラクティブなパフォーマンスになりそうです。


  言葉だけでは届かない、感覚的な実感を得てもらうことによって、観客の心に残るものになれば。今回、客席を巡るモチーフを使うということは、人が移住する時に、人に付随してモノが実際に世界を移動するということをイメージしています。真面目な話だけだとキャッチーではないので……。


──二人の間でどのようにアイディアを出し合い、作品をつくっているのですか?


オクイ
  
私たちは、知り合ってからずっと個人的な友人として対話を重ねてきましたし、昨年私が東京に行った時にも、たくさん意見交換をしました。こうして今回、一緒に作品をつくる機会があってすごくよかったなと思っています。ずっと一緒にいられるわけじゃないので、スカイプでも企画を練りました。朝子とはスカイプで今回の作品について準備をしてきたから、ネット上でコミュニケーションするのには慣れていたけれど、今作のために一度マレーシアにも来てくれたんですよ! それで、私が移住者と関わる場所を見てもらうこともできました。作家が別々の拠点にいて作品づくりをすることはあまりないと思うけれど、今回はフェスティバル側が私たちのことを尊重して応援してくれたので、ありがたいです。


  オクイがそう思うかはわかりませんが、作品のつくり方が似ていたから離れていてもやりやすかったのだと思います。

 

オクイ  ふたりとも多文化主義や移住者のことについて、まったく異なる問題意識を持っているけれど、同じアイディアも持っているという感じですね。

 

  背景や経験は違いますし、自分の思ったことと違うことももちろんあります。でもそれはそんなに大きい問題ではなく、オクイとのディスカッションで乗り越えられる。いつもそうするようにしています。

 

オクイ  作品の構成について、情報と経験的に共有できるもののバランスをどうするか、話し合いを繰り返しましたね。

 

  私たちは意見が違っても、喧嘩をすることはありません。違う意見を、互いに補足しあっていくというように考えています。

 

オクイ  そうそう! 他人同士、違う意見を持つということは普通のことですもん! コラボレーションの最中に相手が同じことを考えていたら、逆に不自然です(笑)。

 

  どんどん良いものができるように、トライを積み重ねていけば作品ができる。これが私たちに共通するマインドですね。

 

オクイ・ララ「As If, Home」(2015)のスチル映像 バングラデシュ移民


──お話を伺っているとエチオピアから日本、ミャンマーからマレーシアへの移民を題材にするなど「トランスフィールド from アジア」という企画の枠組みからかなり突出した世界観を感じてわくわくします。そもそもアジアというひとつの枠組みで測れることには限度がありますものね。

 

オクイ  そうですね。しかし、グローバライズされた世界の中でも、アジアは地理的な境目のひとつではあるでしょう。私の曽祖父は中国人ですし、私は今マレーシアに住んでいる。アジアという「ボーダー」があることで、アイデンティティも持てる。でも、私たちはその先をどう乗り越えていくか考えなければならないんです。アジア人、マレーシア人としてのアイデンティティもあるけれど、「ボーダー」そのものに気づかないと。やっぱり人種に対するステレオタイプな思い込みはまだまだ根深いから……ボーダーをさらに深掘りして、そうした思い込みを乗り越えることを、自分のプロジェクトを通じて伝えたいです。

 

  私が学んできた現代美術は、ヨーロッパの文脈に成り立つものでした。これまでも、文明の利器と言われる様々なものが西洋からアジアやアフリカに輸入されてきましたよね。私は、自分のアイデンティティとしてアジアのアーティストだ! とは思っていないけれど、活動する地域のアーティストでありたいとは思っています。日本人全体を代表はできないけれど、日本の中のひとつの都市となら密に関われる感覚に似ているかな。アジアの国だからといって、中国や韓国、日本、マレーシアなどがアイデンティティを同じくするのは不自然ですよね。でも、アジア内で協働することって共通の近い文化もあるし、制作のためにマレーシアに行くことができる距離としての近さもある。そういう距離感が面白いなあと思います。

 

 オクイが共同運営するスペース「ルアン・コンシ」に滝が訪問し、エチオピア人との活動をシェアした(2019年)


──今作を、どこの国の人、あるいはどういった境遇の人に届けたいと思っていますか?

 

オクイ  パフォーミングアーツのフェスティバル演目だけれど、演劇に関わっていない一般社会の人にも観てもらいたいです。

 

  アート以外の、ソーシャルワーカーの人や、移民の友達にも来てほしいな。でも、みんな忙しいかなあ……。休みの日は家族と過ごしたりやりたいことがあるだろうし、でも来られるように頼んでみたいな。

 

──レクチャーパフォーマンスに不慣れな観客もいると思いますが、観客たちはどういう心構えで劇場に向かえば良いでしょうか?

 

オクイ  心を開いてさえいてくれれば! 学校のクラスみたいなものなので、心を閉じ込めないで。最後にQ&Aの時間も設けますから、自由に質問もできます。

 

  劇場でのシアトリカルなパフォーマンスではないぶん、オクイが言ったように、聞こうとしてくれる姿勢を持ってくれたらいいなと思います。耳で聞いて、情報をキャッチして、それをつなげるのは自分自身の中でおこなうことになるので。リラックスして。もちろん、疑問があれば聞いてくださいね。

 

──ありがとうございました。お二人の共同制作、楽しみにしています。

 

 

オクイ・ララ

アーティスト。1991年生まれ。ペナン、クアラルンプールを拠点にするアーティスト、カルチャー・ワーカー。ビデオやパフォーマンスから、コミュニティとの協働まで、広範囲におよぶ活動を通し、移住背景や翻訳プロセスをリサーチ、アイデンティティについての探求を行う。さいたまトリエンナーレ2016参加アーティスト。国際交流基金アジアセンターフェローシップ。

滝 朝子

アーティスト。自己と他者、国や性別などの境界やそこに生まれる交流に着目。近年は移民にまつわる参加型作品や協働プロジェクトを、パフォーマンスや映像、インスタレーションとして発表する。NPO ARDA事務局長として子供から高齢者までを対象とした創作、鑑賞活動の場づくりを実践。Back and Forth Collectiveとして、ジェンダーに関する企画や展覧会もしている。

落 雅季子

1983年東京生まれ。一橋大学法学部卒業。LittleSophy主宰。批評の実践の他、近年はクラシックバレエを学んでいる。Twitter:@maki_co

聞き手・構成 落 雅季子

トランスフィールド from アジア
To ツー 通

企画・出演 オクイ・ララ×滝 朝子
日程 11/2 (Sat) 15:00
11/3 (Sun) 15:00
11/4 (Mon) 15:00
会場 シアターグリーン BIG TREE THEATER


人と都市から始まる舞台芸術祭 フェスティバル/トーキョー19

名称 フェスティバル/トーキョー19 Festival/Tokyo 2019
会期 令和元年(2019年)10月5日(土)~11月10日(日)37日間
会場 東京芸術劇場、あうるすぽっと、シアターグリーンほか


人と都市から始まる舞台芸術祭 フェスティバル/トーキョー19

名称 フェスティバル/トーキョー19 Festival/Tokyo 2019
会期 令和元年(2019年)10月5日(土)~11月10日(日)37日間
会場 東京芸術劇場、あうるすぽっと、シアターグリーンほか


概要

フェスティバル/トーキョー(以下F/T)は、2009年の開始以来、東京・日本を代表する国際舞台芸術祭として、新しい価値を発信し、多様な人々の交流の場を生み出してきました。12回目となるF/T19では国内外のアーティストが結集し、F/Tでしか出会えない国際共同製作プログラムをはじめ、劇場やまちなかでの上演、若手アーティストと協働する事業、市民参加型の作品など、多彩なプロジェクトを展開していきます。

 オープニング・プログラムでは新たな取り組みとして豊島区内の複数の商店街を起点とするパレードを実施予定の他、ポーランドの若手演出家マグダ・シュペフトによる新作を上演いたします。

 2014年から開始した「アジアシリーズ」は、「トランスフィールド from アジア」として現在進行形のアジアの舞台芸術やアートを一カ国に限定せず紹介します。2年間にわたるプロジェクトのドキュントメント『Changes(チェンジズ)』はシーズン2を上映予定です。

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