>   > 茶室の中で感覚が目覚める -『Strange Green Powder』 チーム インタビュー(神村恵・武本拓也・宮崎直孝(ミルク倉庫+ココナッツ)・高木生)
2019/10/03

茶室の中で感覚が目覚める -『Strange Green Powder』 チーム インタビュー(神村恵・武本拓也・宮崎直孝(ミルク倉庫+ココナッツ)・高木生)

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(インタビュー・文:須川善行 撮影:鈴木 渉)

フェスティバル/トーキョー19(以下、F/T)の全プログラム中、もっとも謎に満ちた作品と囁かれているのが、ダンサー・振付家の神村恵による『Strange Green Powder』だ。茶室の中で行われるということだけが決まっていた本作の姿が、いよいよ像を結び始めた。神村と武本拓也というふたりのダンサーが、「ミルク倉庫+ココナッツ」のしつらえる舞台装置の中で、高木生の作る音楽を伴いつつ、観客の感覚や意識を攪乱するという。しかし、それはいったいどんな発想に基づき、どんな仕掛けを秘めたものなのか。制作中の4人(「ミルク倉庫+ココナッツ」からは宮崎直孝)に話を聞いてみた。


── 今回の 『Strange Green Powder』 は、どういうことをしようとしている作品なんでしょう。

 

神村 抹茶っていうのは、カフェインの塊だと考えると、もともとは一種のドラッグのようなものとも言えると思うんです。人間って、たぶん目の前にある現実ではないものに意識をもっていくツールを求めてもいるんでしょうね。そして、みんなで狭くて四角い空間に集まって、抹茶っていう圧縮された飲みものを飲みつつ、それぞれが音とか匂いとか味覚とかに感覚を向けていって、そこで意識の網目のようなものができあがるという状況が面白いですよね。
 実は今回の作品は、まず場所の決定が最初だったんです。場所が茶室ではあるんですが、最初はその特殊性にはあまりよらないで作ろうと思ってました。でも、実際に茶席に参加してみたら、茶席という形式に興味を持ちました。狭い部屋の中に掛け軸や焼き物や花を置いて──これって一種の引用ですよね──、ふだんとは違うコミュニケーションをするという形式が、劇場で作品を見ることにちょっと近いなと思って。
 それで、掛け軸とか花のように、美術の装置や音楽を茶室に置いてみたり、ダンスも同じように扱えないかと考えました。今回ごいっしょするミルク倉庫さんと高木さんは前に作品で関わったことがあって、武本さんは今回が初めてですけど、それぞれ作品なり作家性を借りてきて並べてみるというところから考え始めました。

 

 

 

 

── 武本さんは、神村さんから今回どういうふうに出演を頼まれたんですか。

 

武本 いきなり声をかけられたんです。7月に早稲田でやった僕の公演(「7月の水曜夜」)を見て、そこでいきなり、ですね。
 僕はダンサーではないんですけど、やっていることはどっちかというとパフォーマンスみたいな感じなんです。毎日1時間ずつ部屋の中をゆっくり歩く、みたいなことをやっていて、公演でも1時間くらいゆっくり歩いていました。
 今回は最初、お茶をモチーフにするとか、いろいろなものを引用するとかということは聞いていて、そういうところからいっしょに考えていけないかという提案は最初に受けていました。僕としては、けっこう「もの」みたいに、掛け軸とか茶器みたいなものと同じレベルのかたちでいるイメージなのかなと。

 

神村 最初はそういうイメージだったんですけどね(笑)。

 

 

── 神村さんと武本さんの関係性は、どんなものになりそうですか?

 

神村 主客みたいな関係はありかなと考えてますね。そうすると見に来たお客さんが、もうひとつ外側のお客になるというか、「見るー見られる」という関係に、もうひとつ層を作れるとも思ったんですが、実際はまだ探り中です。

 

 

 

 

神村 ミルク倉庫の作品は、因果関係が直線的につながっていそうでつながっていなさそうなところがあるんです。全体として関係してるんだかしてないんだかわからなくて、ふわっとした浮いているような感じもあって、ちょっと今回の作品に近いなということでお願いしています。

 

宮崎 今の因果関係のお話は、わりと最近の作品にある傾向ですね。力学的な関係がありながら、それが相互に嵌入して、見ているとどこに力がかかっているのかわからないみたいな、見ていると意識が散らされるような作品です。
 今回イメージされているのは、たぶん2年くらい前に作った作品かなと思います。作品全体としては、デバイスを仕込んだものがランダムなタイミングで動く、みたいなインスタレーションでしたね。

 

 

── 今回のテーマの「お茶」については、どうお感じでした?

 

宮崎 お茶って、形式がすごく強くて、それ自体完成されたものですよね。お茶会をめぐる説明自体も機能的で、装置みたいなイメージですね。人を強制していながら、強制してないていになっちゃうような危うさもあるし、参加した人の教養を試すハイコンテクストなところもある。開かれているけれど、同時に閉じてもいるというイメージをどう処理しようかと考えているところです。

 

 

 

 

── 高木さんは、お茶ってどういうふうに捉えてます?

 

高木 神村さんのいわれた、お茶はドラッグかもしれない、みたいなお話はすごく面白いですよね。実際にお茶を飲むと変な味だし。この間、お茶会みたいなワークショップに参加して、そこで濃茶をみんなで回し飲みしたんですけど、それも何か変な閉じた感覚があって、不自然というか、その「お茶」という装置の中に入って、そっちの方に自分が変えられるようなイメージはもちました。

 

神村 高木さんとは、あうるすぽっとで、日本女子体育大学の学生に振り付ける公演(「ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん’18」、神村のほか、白神ももこ、福留麻里が振付を担当した)をやったときに、音楽を担当してもらったんです。

 

高木 そのときに神村さんと話したのは、ダンスと音楽ってよくある組み合わせだけれど、どっちかが主でどっちかが従、みたいな関係ではないようにしたいね、と。今回もそこはそういう意識ですね。

 

神村 前にやったときには、それぞれ違う音源を入れた複数のラジカセをダンサーが持ち歩いて、勝手に再生したり止めたりすることでいろいろな音の組み合わせができる、というものでした。
 今回は舞台が茶室なので、奥の方でごそごそやってるのがふすま越しに聞こえたりとか、ひとつ層を変えるだけでも音の聞こえ方が変わってくるので、そういう微細な効果もけっこう使えるなと私は考えてます。

 

 

 

 

── 神村さんは、踊りにいわゆる美しさとか高度なテクニックとか、あるいは自己表現はあまりもちこまない、タスク(内面と分離された動作)を重んじるタイプの作品を作ってこられたと思います。そういう流れとこの作品は、どういうふうにつながっていますか?

 

神村 ここ数年、自分がダンサーとして内発的に踊ることにそれほど興味がもてなくなってきてたんですね。コンセプトを外側に設けて、そこから自分にタスクを与えて、動かざるを得ない状況に投げ込むというやり方の方が、自分としてはやりやすかったんです。
 たぶん今回もこのメンバーの中でいろいろなタスクを共有するということはあると思うんですけど、今回は、踊っているときの自分の意識のあり方や感覚的なものも探りながら進める作品にしたいと思ってます。動きの一つ一つをもっと慎重に選びながら置いていきたいなと。
 私自身は、動きのシークエンスを自分で固定して踊ることがわりと苦痛な方なんですよ、人から与えられて覚えるのは別にいいんですけど。要は、自分でここがベストと決定したり、フォルムとか順番を決める根拠を見出せないんです。作ったときにはいいと思っても、何回かやったらその形を内側から成り立たせていた感覚自体も変化してしまうので。
 なので、最近はなるべくそれをしないですむようなやり方で作ってきたんです。条件だけ決めてあとはインプロとか、やらなきゃいけないタスクがあって、それによって動きが決まるとか。でも今回は、もっと自立した動きを作ってみたくて、いまいろいろ試しているところです。
 今回は空間も狭いし、細かいところの一個一個に目が行く作りになっているので、音に耳を傾けたり、もののちょっとした角度に注目したりみたいな細部に集中する意識と、全体を漠然と感じる意識の両方を体験できる作品にしたいと思っています。

 

 

神村 恵

ダンサー・振付家。物質としての身体、言語により変容する身体、他者との関係によって動かされる身体など、身体をさまざまな側面から観察、再構築する作品を手がける。近年の主な作品に津田道子とのユニット「乳歯」による『知らせ#2』(17年、STスポット)、『報せ』(18年、SCOOL)など。
http://kamimuramegumi.info/

武本拓也

いるということへの関心を出発点に、自分1人での上演を行っています。武蔵野美術大学 映像学科 卒業。美学校 実作講座「演劇 似て非なるもの」第4期修了。ソロ公演に「正午に透きとおる」(2019.2)、「象を撫でる」(2018.5)など。
https://www.takemototakuya.com/

髙木生

tnwh、noobtastic名義で音楽活動を行う。 空間を活かした音の配置や、音楽の意匠をあえて平板に捉えて、身体化されたサンプリング感覚を相対化するライブやアルバムをこれまでに発表。 近年は主に歌と共有をめぐる問題に取り組む。2013四谷アート・ステュディウム第6回マエストロ・グワント受賞。
https://tnwh.bandcamp.com/

宮崎直孝(ミルク倉庫+ココナッツ)

1974年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒[1998]、四谷アート・ステュディウム在籍[2005-07]。循環系装置の研究・開発等。主なき器官たち、または、器官主体そのもの→《公的内臓》「《公的内臓》公開デモンストレーション」[milkyeast(東京), 2014]。その他の主な個展として、第2回マエストロ・グワント優秀賞展「It will die, if it does directly」[Gallery Objective Correlative(東京), 2007]など。グループ展には、「第12回岡本太郎現代芸術賞展」[川崎市岡本太郎美術館(神奈川), 2009]、「Celsius」[CASHI(東京), 2015]などに参加。「ミルク倉庫+ココナッツ」主宰。
http://www.milksouko.com/

須川善行

1962年生まれ。編集者。元『ユリイカ』編集長。編集した本に、菊地成孔+大谷能生『憂鬱と官能を教えた学校』、大友良英『MUSICS』、穂村弘『短歌の友人』、東谷隆司『NAKED』、柴田聡子『さばーく』ほか多数。製作した映画に、冨永昌敬『庭にお願い』、CDにとりふね+須川善行『ことの次第』。

インタビュー・文:須川善行 撮影:鈴木 渉

『Strange Green Powder』

日程10/24(Thu) 15:00 / 19:00
10/26(Sat) 12:00 / 15:00 / 19:00
10/27(Sun) 13:00 / 17:00
振付・演出 神村恵
出演 神村恵、武本拓也
音楽 髙木生(tnwh/noobtastic)
装置 ミルク倉庫+ココナッツ
会場 豊島区立目白庭園 赤鳥庵

■関連企画開催
F/T×アップリンク クロスオーバー企画
パフォーマンス&トーク開催
『Strange Green Powder』バンドライブ初お披露目公演
音×ダンス×装置×言葉で演奏する一夜限りのバンドライブ

出演 神村恵、武本拓也
音楽 髙木生(tnwh/noobtastic)
装置 ミルク倉庫+ココナッツ
日程 10/7(Mon) 20:00 -
※開場 19:45 
会場 アップリンク渋谷


人と都市から始まる舞台芸術祭 フェスティバル/トーキョー19

名称 フェスティバル/トーキョー19 Festival/Tokyo 2019
会期 令和元年(2019年)10月5日(土)~11月10日(日)37日間
会場 東京芸術劇場、あうるすぽっと、シアターグリーンほか


概要

フェスティバル/トーキョー(以下F/T)は、2009年の開始以来、東京・日本を代表する国際舞台芸術祭として、新しい価値を発信し、多様な人々の交流の場を生み出してきました。12回目となるF/T19では国内外のアーティストが結集し、F/Tでしか出会えない国際共同製作プログラムをはじめ、劇場やまちなかでの上演、若手アーティストと協働する事業、市民参加型の作品など、多彩なプロジェクトを展開していきます。

 オープニング・プログラムでは新たな取り組みとして豊島区内の複数の商店街を起点とするパレードを実施予定の他、ポーランドの若手演出家マグダ・シュペフトによる新作を上演いたします。

 2014年から開始した「アジアシリーズ」は、「トランスフィールド from アジア」として現在進行形のアジアの舞台芸術やアートを一カ国に限定せず紹介します。2年間にわたるプロジェクトのドキュントメント『Changes(チェンジズ)』はシーズン2を上映予定です。

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