>   > 「ボンプン・イン・トーキョー」ポルポト政権下で失われたカンボジアの文化とアイデンティティーの再構築を目指して
2018/11/07

「ボンプン・イン・トーキョー」ポルポト政権下で失われたカンボジアの文化とアイデンティティーの再構築を目指して

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
文/大石始 撮影/鈴木渉

3日間で14万人を動員、
若い世代からの圧倒的支持を集めている注目のフェス
「ボンプン(Bonn Phum)」とは?

「フェスティバル/トーキョー」アジア・シリーズの一環として行われる『ボンプン・イン・トーキョー』は、カンボジアの首都プノンペンで今まさに生まれつつあるジャンル横断型のカルチャーを伝えるプログラムだ。

 このプログラムは2014年からプノンペン郊外で開催されている巨大フェス「ボンプン(Bonn Phum)」の日本上陸版。今年4月の開催時には3日間で14万人を動員し、若い世代からの圧倒的支持を集めている注目のフェスだ。ここでテーマとして掲げられているのは伝統芸能/舞踊とポップ・カルチャーの融合。その背景にはかつてポルポト政権下で弾圧され、失われてしまった文化とアイデンティティーを再構築しようという意識がある。

 ここではボンプンのディレクターであるローモールピッチ・リシーを迎え、7月11日にDOMMUNEで放映されたプログラムの模様をお届けする。司会進行はライターの大石始、通訳福富友子。DOMMUNEの宇川直宏と武田侑子(フェスティバル / トーキョー)にも一部ご登場いただいた。

 

古い伝統と新しいものをどのように結びつけるか

―まず、ボンプンとは何なのでしょうか。

 

ローモールピッチ 「ボン」(Bonn)は祭り、プン(Phum)は「村」という意味で、村民が連帯するために古くから行われてきた村祭りのことです。農村だと稲刈りのあとに豊作を祝ってボンプンをやるように、漁村だと大きな漁が終わったあとにやったようです。みんなで喜び合うということですよね。

 

―伝統的なボンプンではどのようなことが行われていたんでしょうか。

 

ローモールピッチ 資料が少ないのではっきりしたことは分からないんですが、収穫物を一箇所に集め、その周りで輪になって歌ったり踊ったりしたそうです。村の有力者が大衆芸能の一座を招聘することもあったみたいですね。いずれにせよ、村の人たちの連帯を強め、日々の労働を労うという意味合いもあったのではないかと思います。

 

―ポルポト派の時代にそのボンプンの風習は途絶えてしまいますよね。

 

ローモールピッチ そうですね。復興に向かって少しずつ社会が改善していくなかでも、人々の間にはボンプンをやる余裕もなくなってしまった。日々の生活のことで精一杯だったんですよ。社会が変化するなかで人々の価値観が変わり、ボンプンを必要としなくなったこともあると思います。

 

―では、ローモールピッチさんはなぜボンプンを復活させようとしたんでしょうか。

 

ローモールピッチ とあるプロジェクトに関わったとき、スバエク・トムというカンボジアの伝統的な影絵芝居に触れる機会があったんですね。大太鼓の迫力や影絵の美しさに自分の心の鍵を開けられたような感覚がありました。ただ、今のカンボジアの若者たちのあいだでスバエク・トムのことはあまり顧みられていないので、この芸能を広めたいと思うようになったんです。調査を続けるなかでソバンナプムというスバエク・トムのグループの団長として知り合いまして、彼らの公演を企画するなかでそれが1回目のボンプンに発展していきました。

 

―では、ここで復活版ボンプンでどのようなことが行われているのか、動画をご覧いただきましょうか。

 

 

―昔ながらのゲームも行われているわけですね。

 

ローモールピッチ そうですね。昔から集落で行われていたようなゲーム、たとえば綱引きや、的にボールをあてると女の子が水に落ちるという遊びもやりますし、タイやミャンマーなどでも行われている水かけもやります。メインとなるのはルカオン・カオルという伝統的な仮面劇や先ほどお話したスバエク・トムですね。ルカオン・カオルは仮面を被って演じる古典的なお芝居で、王子様や魔物、猿といったキャラクターが出てきます。

 

―今回通訳をやっていただいている福富さんはスバエク・トムがご専門でいらっしゃいますよね。こうした影絵芝居はインドネシアやマレーシアでも行われていますが、カンボジアのスバエク・トムの特徴とはどのようなところにあるのでしょうか。

 

福富 ひとつ挙げられるのは、ステージと人形が大変大きいということですね。スバエク・トムの場合、影を見せるだけじゃなくて、スクリーンの前に出てきて人の姿も見せるんです。

※スバエク・トムの詳細については「スバエクの会」ウェブサイトへ https://sbekthom.web.fc2.com/ 

―もともとはどのような場所で行われていたんでしょうか。

 

福富 いろんな説があるんですが、私が現地で習っていたときに年配の方がおっしゃっていたのは、位の高いお坊さんが亡くなったあとに大規模な火葬儀礼を行う習慣があったそうで、スバエク・トムはそのなかで演じられていたそうです。内戦前は王宮に呼ばれて国王の前で演じられることもあったようですね。いずれにせよ、特別な場で演じられるものであって、小さな祭りで行われることはあまりなかったようです。

 

―ボンプンではこのスバエク・トムやルカオン・カオルといった伝統芸能が重要な役割を果たしているわけですね。若者たちはそうした芸能をどのように受け止めているのでしょうか。

 

ローモールピッチ 最初は興味を持つ若者は少なかったんですが、毎年上演しているので少しずつ関心を持つ人たちが増えてきているという実感はあります。最初は理解できなくても、若い世代の目に触れ、「あれってなに?」と会話の題材にしてもらう。そのことが大事だと思うんですよ。ボンプンはカンボジアの民間企業にスポンサーになってもらっているので入場無料ですし、私たちも経済的な成功のためにやっているわけではないんですね。そのかわり、若い世代にスバエク・トムのような伝統芸能の魅力に触れてほしいんです。

 

―ボンプンのような場がないと、プノンペンの若者たちはスバエク・トムやルカオン・カオルに触れる機会すらない?

 

ローモールピッチ そうですね。ボンプンの一番最後には現代のバンドに毎回パフォーマンスしてもらっているんですが、社会はどんどん変わっていくので、昔ながらのボンプンをそのままやっても意味がないんじゃないかと考えていましたし、若い世代に足を運んでもらわないと意味がない。古い伝統と新しいものをどのように結びつけるか、そこは意識しています。

―では、ここでまた別の動画をご覧いただきましょうか。これはボンプンのテーマソングのミュージックヴィデオですね。


 

―歌っている彼らはどういう人たちなんですか。

 

ローモールピッチ スモール・ワールド・スモール・バンドのメンバーです。彼らは音楽を通じて若い世代のアイデンティティーを表現していて、ボンプンにも関わってもらっています。

 

―武田さん(フェスティバル / トーキョー)は今年の3月、プノンペンに行かれたそうですね。スモール・ワールド・スモール・バンドは現地でどのような存在なのでしょうか。

 

武田 カンボジアにもSpotifyのように無料で音楽を聴けるアプリがあるので、向こうでダウンロードしてみたんですよ。そうしたらトップ画面にジャスティン・ビーバーとCLに挟まれる形でスモール・ワールド・スモール・バンドが並んでいたんです(笑)。それだけですごく人気があることが分かりましたね。

 

―それぐらいの人気バンドがボンプンに関わっているということですよね。リシーさんはスモール・ワールド・スモール・バンドのマネージャーもやってるんですよね?

 

ローモールピッチ そうですね。彼らとは私がBBCに勤めていたころに出会いまして、それからの付き合いなんです。カンボジアの音楽シーンはラヴソングばかりなんですが、そういうものじゃなくて文化的なテーマや自分たちのアイデンティティーを示す歌を作っていきたいという思いが彼らのなかにあったんですね。そこにシンパシーを覚えて、一緒にやるようになりました。


ひとつひとつは小さな炎でも集まれば大きなものとなる


―先ほども話に出たように、カンボジアはポルポト派の時代にさまざまな文化的断絶があったわけですが、リシーさんがやってらっしゃるのはそのミッシングリンクを繋ぎ合わせる作業でもありますよね。そうした動きはプノンペンで活発になっているんでしょうか。

 

ローモールピッチ プノンペンの音楽シーンに関しては少しずつ発展してきていると思います。以前は音楽の道を志すなんて親に言うと大反対されたものですが、音楽をはじめとする文化的なもの対する意識も徐々に変わってきましたね。また、以前はアメリカのポップスの歌詞だけを変えたものも多かったんですが、カンボジアの伝統的な要素を盛り込んでオリジナルなものとして形にしているものも増えています。

 

―ここでひとつ動画を流しましょうか。クラップヤハンズというプノンペンのヒップホップ・レーベルがあるんですが、彼らはポルポト派につぶされる前のクメール歌謡黄金時代の楽曲をサンプリング/カヴァーしてるんですね。この曲はシン・シサモットというポルポト派に殺されたカンボジアの国民的歌手のカヴァーです。

 

 

―そういえば、リシーさんはクラップヤハンズとも繋がりがあるそうですね。

 

ローモールピッチ カンボジアで初めてヒップホップを持ち込んだのが彼らじゃないかと思います。私自身、クラップヤハンズを通じてヒップホップを知りましたし、レーベルのディレクターは私にとってのアイドルなんです(笑)。ほかにもローラ・マム(Laura Mam)などクラップヤハンズに近いスタンスで活動しているアーティストは増えています。

 

―リシーさんが代表を務める「Plerng Kob」は映像やデザインを通してカンボジアの伝統文化と現代を繋ぐことを目的としているそうですが、この団体はどういう活動をしているのでしょうか。

 

ローモールピッチ 「Plerng Kob」はボンプンの主催団体なんです。「Plerng Kob」はクメール語で「キャンプファイア」という意味がありまして、人々の出会う場所を作ればと思い設立しました。また、伝統的なスバエク・トムは大きな火を焚いて演じるんですが、そのイメージもあります。ボンプンのスバエク・トムの際は実際に小さな炎を焚きます。ひとつひとつは小さな炎でも、それが集まれば大きなものとなる。そうした象徴としての「Plerng Kob」でもあります。

 

―ちなみに、武田さんはプノンペンを訪れた際に現地のカルチャー/アート・シーンに触れられたと思うんですが、どのようなことを感じられました?

 

武田 やはり国民の平均年齢が24歳の国なので、エネルギーを感じました。日本の平均年齢は40代なので、その点からしてだいぶ違いますよね。

 

―伝統と現代的なものを融合させようとプノンペンで動いている人たちもその世代、20代半ばが中心ということですよね。92年生まれのリシーさんはまさにその世代です。

 

武田 ただ、彼女は「自分はもう若い世代じゃない」と言ってました(笑)。

 

ローモールピッチ 5年前なら「若い世代」と言えたんですが、もう20代半ばなので(笑)。プノンペンの若者たちは2000年代以降の生まれのことを指すんですよ。

 

―では、ボンプンの東京公演「ボンプン・イン・トーキョー」ではどのようなことを予定しているのか、リシーさんにご説明いただきましょうか。

 

ローモールピッチ カンボジアでやっているボンプンは非常に規模の大きなものなので、その一部をご覧いただければと思ってます。ボンプンの模様を撮影したドキュメンタリー映像、ギターやドラムなどの西洋楽器と伝統楽器を組み合わせたスモール・ワールド・スモール・バンドのパフォーマンス、もちろんスバエク・トムとルカオン・カオルの上演も予定しています。ボンプンはあくまでもお祭りですので、ぜひ会場に足を運んでいただき、ワクワクしてほしいですね。

 

宇川 大石さん、最後にちょっといいですか?

 

―お、ぜひぜひ。

 

宇川 こないだ現代アートをやってるとある日本人の方と話していたんですが、その人は「カンボジアで現代アートをやってる人は20人ぐらいしかいないと思う」と言ってたんですよ。ただ、ダンスのカルチャーはすごく浸透していて、そこがヒップホップのムーヴメントと結びついている、と。あと、カンボジアのガレージ歌謡を取り上げたドキュメンタリー映画があるじゃないですか。

 

―『Don't Think I've Forgotten:Cambodia's Lost Rock and Roll』ですね。

 

宇川 そうそう。その映画で取り上げられてる歌手やミュージシャンはクメール・ルージュに殺されてるんでしょ? 今回のボンプンもそこからの流れで感じてほしいよね。

 

 

―そうなんですよね。リシーさんやクラップヤハンズの動きは、この映画で取り上げられているものの次のステップですよね。

 

ローモールピッチ ポルポト派時代以前のロックンロールを取り上げた映画ですね。こういう時代の映像を見ると、当時まだ生まれていなかった私でも心が揺さぶられます。いい時代があったんだなと。私たちは現代にこういうエネルギーを生み出したいんです。

文/大石始

 

ローモールピッチ・リシー

映画監督。王立プノンペン大学メディア・コミュニケーション学部卒業。BBCメディア・アクション・カンボジアのディレクター、プロデューサー、ライターを経て、2014年にアートを愛する若者のコミュニティ「プレンコブ」(キャンプファイヤーの意)を創設。失われたカンボジアの伝統を現代に接続するボンプン(ビレッジ・フェスティバル)を主催している。5回目の今年は、3日間で約140,000人が来場した。別名、YoKi Cöcöとしても活動。

ボンプン・イン・トーキョー

キュレーション ローモールピッチ・リシー
出演 スモールワールド スモールバンド(音楽バンド)、ソバンナ プム・アーツ・アソシエーション、ソピア・チャムローン、ティン・トン(伝統音楽) D-MAN
日程 11/10 (Sat) 19:00, 11/11 (Sun) 18:00
会場 北千住BUoY

フィールド:プノンペン

参加アーティスト ノーウェア、マニス、ダナ・ラングロア、歌川達人、山川 陸
日程 11/10(Sat)14:00 - 21:30・ 11/11(Sun)14:00 - 20:30
会場 北千住BUoY
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ピックアップ記事

ドキュントメント『Changes』レビュー (夏目深雪)

(文:夏目深雪) あなたは世界である 山本卓卓の『Changes』はとりあえずドキュメンタリー映画であると言っていいだろ...

[続きをみる]

ドキュントメント『Changes』レビュー (鈴木理映子)

文/鈴木理映子 『Changes』で変わるものは−− 俳優・田中美希恵が痩せていく過程を、かつて所属した劇団の主宰がカメ...

[続きをみる]

ドキュントメント『Changes』レビュー (佐々木敦)

文/佐々木敦 範宙遊泳山本卓卓初監督映画、ドキュントメント、あとはタイトルしか知り得ない状態で試写を観たのだが、いかにも...

[続きをみる]

「ボンプン・イン・トーキョー」ポルポト政権下で失われたカンボジアの文化とアイデンティティーの再構築を目指して

文/大石始 撮影/鈴木渉 3日間で14万人を動員、若い世代からの圧倒的支持を集めている注目のフェス「ボンプン(Bonn ...

[続きをみる]

カテゴリ