極太眉毛の集団を見かけたら注意! 矢内原美邦(Nibroll)、古家優里(プロジェクト大山)が仕掛ける『F/Tモブ』

テキスト:CINRA.NET編集部

不要品を床に捨てる? コンセプチュアルなフラッシュモブ



『F/T13』オープン・プログラムの目玉として、毎週末に開催されている『F/Tモブ・スペシャル』。昨年は、東京芸術劇場周辺のみでの開催だったが、今年はその範囲を池袋全域に拡大。あらゆる場所、思わぬところで、突如としてフラッシュモブが展開されている。今回は、そんな池袋の至る所で行われている『F/Tモブ・スペシャル』の様子をレポートしよう。

ダンスカンパニー「Nibroll」の振付家であり、劇作家として岸田國士戯曲賞も受賞した矢内原美邦が振付をしたモブチームは、池袋西口にある東武百貨店とLUMINEの間にあるメトロポリタンプラザビル自由通路をジャック。

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矢内原美邦チームのモブの様子 (c) Ryosuke Kikuchi

パフォーマンスは、モブダンサーが持ち寄った「いらないもの」を次々と捨てていくところから始まる。古い携帯電話やセーラー服など、それぞれが持ち寄った不要品を床に捨てていくモブダンサーたち。これは単に音楽に合わせて踊るだけでなく、コンセプトに基づいて練り上げられたフラッシュモブのようだ。一瞬で街を包み込んでしまうような派手さは少ないものの、思わず足を止めてしまった週末の買い物客たちに、そのパフォーマンスはじわじわと浸透していく。

「CMの撮影?」「ダンス?」「なにこれ?」と、戸惑いながらも、興味深げにじっと見つめる買い物客たち。そして、音楽にあわせておしくらまんじゅうをしていたパフォーマーたちは、突然駆け出して人ごみの中へと消えていく。わずか5分あまりの幻のようなパフォーマンスの後には、ポカーンとした表情の買い物客たちが残されていた。

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矢内原美邦チームのモブの様子 (c) Ryosuke Kikuchi


オタクや若者たちの熱狂的な反応を生み出した、東池袋のフラッシュモブ



一方、池袋東口・豊島区役所のすぐ近くにある「中池袋公園」でフラッシュモブを繰り広げたのは、ダンスカンパニー「プロジェクト大山」を率いる古家優里。サンシャイン通りからもすぐの場所で、ヤマダ電機やアニメイトなども近くにあるこの公園には、買い物途中で一服する人々が集まっている。ぼんやりとタバコをふかしたり、友達とお喋りに花が咲いたりといった日常の風景の中に、この後のデートに向けてか、化粧の崩れを気にしながら眉毛を書き直す人々……の数が、いくらなんでも多過ぎる。そして皆さん眉毛が太過ぎる!

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古家優里チームのモブ風景 (c) Ryosuke Kikuchi

まるで、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉のように、もしくはお笑い芸人のイモトのように、極太眉毛の人々は、古家チームのモブダンサーたち。古家らしい日常の動きを取り入れたコミカルな振付と、モブダンサーたちの極太眉毛に、女子中学生と思しき集団は「何あれ〜?」と大爆笑、しっかりとその様子をスマホのカメラで激写する。さらに、遠巻きに眺めていた男子学生の集団からは、「お前も行けよ〜」とそそのかされた1人が、なんと『F/Tモブ』に飛び入り参加。果敢にモブダンサーたちの輪に加わり、オリジナルダンスを披露した。ノリが良すぎるぞ、池袋東口。

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古家優里チームのモブ風景 (c) Ryosuke Kikuchi

池袋西口エリアにある東京芸術劇場を拠点とする『F/T』にとって、言うならば東口方面はアウェーなエリア。中池袋公園に集う人々には、『F/T』自体を知らない人も少なくないだろう。しかし、アニメイトや飲食店など、若者向けの店が多く集積するこちらのエリアは、フラッシュモブを楽しむための独特の「ノリ」が生まれやすいようだ。古家のパフォーマンスには、かつてないほどの興味とリアクションが向けられ、アニメイト帰りと思しきオタク集団も、そのパフォーマンスを見ながら「俺らもヲタ芸やっちゃう!?」と笑い合っていた。


モブの場所が変わることで、街との間に新しい化学反応が生まれる



ちなみに今年の『F/Tモブ・スペシャル』は、それぞれのチームが場所を変えながらモブを行なうため、前回の『F/Tモブ』レポートでお伝えした、近藤良平、三浦康嗣(□□□)両チームのモブも、さまざまな場所で展開される。同じモブでも場所や客層が変われば、また違う作品として、街との間に新しい化学反応を生み落とすことは間違いないだろう。

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古家優里チームのモブ風景 (c) Ryosuke Kikuchi

そして、このオープン・プログラムの特設ウェブサイトでは、モブの開催予定が週ごとにアナウンスされるので、ぜひチェックしてみてほしい。もちろん、一緒になって踊りたくなったら飛び入り参加も可能。そのための練習動画も用意されている。実は、フラッシュモブという行為には、批評的な見方や社会的な意味もあるとされているのだが、そんなに難しいことを考えずとも、つまる所は「踊る阿呆に見る阿呆」。同じ阿呆なら、どちらを選ぶのか? 矢内原チームに参加するなら「いらないもの」を、古家チームならアイブロウペンシルをお忘れなく!

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