柴田聡子からアジアのコンテンポラリーまで、『F/T』が紹介する次世代を担うパフォーミングアーティストたち

テキスト:CINRA.NET編集部

世界中で最も「演劇」が上演されている都市、東京



現在、東京はニューヨークやロンドンを差し置いて、世界でも最も演劇が上演されている都市だと言われている。タレントが出演するような大規模な舞台や、国際的に活躍する演出家の公演なども行なわれているが、その多くを占めるのは小劇場で行われるまだ名もない若手アーティストによる公演。

そんな若いアーティストをサポートすべく『F/T』では、世界各国から先鋭的なアーティストやカンパニーを招聘した「主催プログラム」の他に、日本を含むアジア中から作品を募集した「公募プログラム」を実施している。公演を行うだけでなく、最優秀作品には「F/Tアワード」が授与され、次回の『F/T』に主催プログラムとして招聘されるという仕組みだ。今年の審査員は、演出家・美術家の飴屋法水、演劇批評家の鴻英良、森山直人、ドラマトゥルクのシュテファニー・カープ、リー・イーナンという面々。日本国内から74団体、アジア地域から63団体の合計137団体の応募を受け、9団体がこの「公募プログラム」として『F/T13』を賑わせている。いったいどんな顔ぶれが、どんな作品を上演をしているのだろうか?


インドのコンテンポラリーだけでなく、韓国、中国、台湾、シンガポールの若手アーティストを紹介



『ダンシング・ガール』というソロ作品を上演したインド人ダンサー、ゴーヤル・スジャータは、インド古典舞踊・バラタナティアムを20年にわたって学んだ後、コンテンポラリーダンスに転向した人物。まだ34歳ながら、インドのみならずアジアのダンスシーンをリードする存在として期待がかかっている逸材だ。

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ゴーヤル・スジャータ『ダンシング・ガール』©Tsukasa Aoki

暗闇の中、肘や太もも、首といった部分だけをライトで照らすスジャータ。インドらしい衣装と伝統舞踊のようなポーズを決めていく。しかし、バラタナティアムのように流麗に踊ることもなければ、舞台に流れる音楽も伝統とは異なる抽象的な現代音楽だ。

スジャータ:インドでは「どうしてこういうこと(注:伝統舞踊をコンテンポラリーダンスに)するのか?」という反発のような感想を受けることもあります。日本で作品を上演するのは初めてなので、とても面白い経験でした。伝統とモダンという対立の中からディスカッションの窓口を広げていきたいと考えています。

公募プログラムでは、特に「アジア」という地域性を強く打ち出しており、今年はスジャータの他に、シンガポール、台湾、中国、韓国からもアーティストを招き、作品を上演する。

スジャータ:西洋とは異なる問題が数多くあるアジアで、コンテンポラリーの作品を上演することは非常に重要なことだと考えています。アジアのアーティストのほうが、西洋のアーティストよりも社会に対して強い危機感を持っているように感じますね。


『F/T』がセレクトした、「これから」を感じさせる若い才能たち



一方、彼らを迎え撃つ国内勢はどのような作品を上演するのだろうか? 日本からは、柴田聡子のプログラム『たのもしいむすめ』を紹介しよう。

しかし、この名前を見て、「え? 歌手なんじゃないの!?」と思ったあなた、そう、正解。アルバム『しばたさとこ島』を発表している注目のシンガーソングライターが、今回、『F/T』の公募プログラムに登場している。いくら上演作品の幅が広い『F/T』とはいえ、歌手が登場するのはおそらく『F/T』史上初めてのこと……。いったいどのようなパフォーマンスが繰り広げられたのだろうか?

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柴田聡子『たのもしいむすめ』©Nao Yoshigai

裸電球がぶら下げられただけの簡素な舞台に登場すると、柴田はアコースティックギターを繊細に爪弾きながら弾き語りを始める。いわゆる「演劇的」な仕掛けのようなものは一切ない。舞台をウロウロと歩き回りながら、か細い声でつぶやくように歌う彼女。その姿は、あたかも吟遊詩人のようにも見えてくる。そういえば、琵琶を片手に『平家物語』を語った琵琶法師も「語り物」というストーリーテリングで、人々を魅了したパフォーマーだった。初めて「演劇」という枠組みで上演を行った柴田は、興奮冷めやらぬ様子でこう語る。

柴田:「これが演劇だ」ということを考えていたわけではありません。ただ、こんな経験は滅多にないことなのでとても楽しかったです。お客さんも、いつも観に来てくれる人と、全く初めての人が入り乱れていて、「お祭り感」がありましたね。

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柴田聡子『たのもしいむすめ』©Nao Yoshigai

実際に観に行かないと、どんな作品なのか知ることが出来ない演劇の世界で、まだ知名度の低い若手アーティストの公演に足を運ぶというのは、なかなかハードルが高いことかもしれない。しかし、『F/T』がセレクトした次世代を担うアーティストという触れ込みなら、そのハードルもやや低くなるはず。柴田の他にも、人間と動物の区別を取り払った世界を表現する「Q」や、社会派ミュージカルを繰り広げる「劇団子供鉅人」、現代美術家とのコラボレーションを展開する「sons wo:」など、「これから」を感じさせる若いアーティストたちが、オリジナルな表現を繰り広げていく。『F/T13』の「公募プログラム」は、現在進行形の新しい可能性を体験出来る、またとないチャンスだと言えるだろう。

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