寄稿 イエン・ヨウ 翻訳 小山ひとみ

 

アジアシリーズ vol.4 中国特集

『トーク:写真、ユースカルチャー、ファッション、音楽』 「中国写真の世界 −ミレニアルズの写真家と自費出版の現状−」スピーカー:イエン・ヨウ

10/28(土)18:00 会場:スーパーデラックス

 

 私は、2009年から本格的に中国の若い写真家に注目するようになりました。当時、私の書いてきたオンラインマガジン(ブログ)「偽雑誌(jiazazhi)」は2年目を迎えていましたが、今後は、幅広く芸術やデザインを紹介するのではなく、写真に特化して紹介しようと決めたのでした。それは、私自身、写真が好きだったからというだけの理由しかありませんでした。私は、大学時代の2004年からずっと映画や演劇にも興味があり、北京電影学院の大学院入試を受けたのですが、残念ながら受かりませんでした。仕事の合間をぬって映画や演劇を観て、そのレビューを書き、「豆弁(douban)網」(中国の有名なレビュー型SNS)に投稿し、意気投合した人たちと意見交換をしていました。

張克純・作品

 当時の「豆弁網」には、ポテンシャルの極めて高い、中国の若い芸術関係者が集まっていたと思います。実際、何年か後に、皆がそれぞれの選んだ分野で活動を始めました。私の場合は、映画や演劇について討論するSNSのグループを始め、徐々に新たなフィールドを見つけました。それが、「現代写真」だったのです(おそらく、写真が好きな人は、映画も好きだったと思います)。ホウ・シャオシェンの映画を見て、「映画にはこういう撮り方もあるのか」と感嘆したのと同様に、スティーブン・ショアやアレック・ソスの写真を見て、「写真にはこういう撮り方もあるのか」と気付かされました。

映画や写真のSNSのグループを通じて、私は次第に、後に注目することになる遊莉、張君剛、劉垣、林舒、朱墨らと知り合うことができました。彼らと仲良くなり、その後一緒に仕事をしました。彼らはアレック・ソス同様、土地やそこで生活する人たちにフォーカスを当ててきた写真家で、人間味があるだけでなく、どの写真からも、彼ら個人の体験が見て取れます。彼らは1949年以降、中国で初めての、自分自身のために撮影をする写真家だと思っています。

張克純・作品

 

「豆弁網」のグループでは、その後も、孫彦初、木格、張暁、劉珂、張克純といった写真家と知り合いました。彼らは先に知り合った上述の写真家とはどこか異なり、自分自身の体験よりも社会のリアルにより目を向けていると感じています。しかし、中国の80年代の写真家と違うのは、猟奇的なものを苦心してカメラに収めようとしたり、自身を「神」の視点に置いたりすることなく、憐みの心から、困窮する人間にフォーカスをしているところです。

木格・作品

 「豆弁網」には、他にも写真家のグループがいました。自分自身や友人の生活や身体に焦点を当てた写真家たちで、中国における「私写真」の“はしり”と言えると思います。最初に知り合ったのはMadi Ju(朱薇)で、当時、彼女は「My Little Dick」というプロジェクトを手掛けていました。彼女とはほぼ同年代ではあるのですが、私は彼女の写真を観て成長してきたと言えます。残念ながら、彼女がVICE中国の編集長に就いてからは、新しい写真を見たことがありません。次に知り合ったのはNo.223(林志鵬)で、私が知る限り、中国でいち早く同性愛者に目を向けた写真家です。彼の、何ものにもとらわれない自由奔放な生き様は、多くの人に影響を与えました。また、現在、ほとんど創作活動をしていない青頭一(劉一青)。彼女は、私の心のパートナーのような存在で、誰もが真似できるものではない、意外性のある作品をよく見せてくれました。

Madi-Ju作品

 任航(レン・ハン)は写真家の中でもまた特別な存在で、自分自身を撮り続けていました。「豆弁網」で彼に目をつけ、彼が電子ブックを作ったり、詩を書いたり、屋外でヌード撮影をして警察に連行されたり、自分で本を印刷して販売している姿を見てきました。後に新書を送り合うことで、直接知り合うことができ、中国の自費出版の先駆けとして、共にいくつかのイベントに呼ばれたりしました。今年、一緒に本を出そうという話もしていましたが、残念ながら叶えることができなくなってしまいました。(注:レン・ハンは、今年2月、自殺し逝去した。)

レン・ハン作品

 

 中国国内でも、既存のメディアは欧米や日本の著名な芸術家にしか目を向けてこなかったので、上述の写真家を紹介したり、インタビューを掲載してきたのは「偽雑誌」が初めてでした。中国語と英語の2か国語で発表しているので、彼らの存在は、中国の写真家に注目している海外の読者にも知られるようになりました。彼らは、他国の写真家と同様に、自分のサイトやFlickrを通しても作品を発表しているので、「偽雑誌」をきっかけに、海外のメディアやイベントから声がかかるようになったのです。

林志鹏・作品

 また、欧米で学んでいる写真家たちも、色々な形で「偽雑誌」を知り、作品を投稿してくるようになりました。カナダ在住の靳華、アメリカ在住の陳哲や塔可、イギリス在住の楊円円、ドイツ在住の唐晶などです。彼らは、また違った「写真」を見せてくれます。それは、とても真面目なアカデミックなアートの作品です。他の写真家たちと違うのは、彼らは「偽雑誌」を通して国内に「帰ってきた」といえます。

 これらの写真家には、才能を見せることができる場が3つありました。一つは2010年に広東省で開かれた費大為氏が立案したフォトフェスティバル「Lianzhou Foto 2010」で、もう一つは、毎年発表される三影堂フォトグラフィーアワード、そして、ここ2年で知られるようになったのは “色影無忌”主催の「新鋭フォトグラフィーアワード」です。これらの場を通して、張文心、程新皓、陳蕭伊、朱嵐清、陳卓、蘇傑浩、邢磊、九口、病女、古力予といった新世代の有能な写真家が登場してきたのを知りました。私が好きな写真家たちが、これらの場で自己表現しているのを目にしました。より多くの人に知ってもらいたいと、仕事の合間に黙々と撮影を続ける者や、すでに「芸術家」として写真をメインで見せている者もいます。また、この世を去ってしまった者もいます。でも、今回紹介した写真家たちが、中国の写真というものをこれまでとは違うものにし、写真を通して世界の人たちに真の中国を知って欲しいと願っているのです。

 

イエン・ヨウ You Yan(言 由)

写真集の編集者兼出版者。2009年写真集出版組織「Jiazazhi」を設立。これまで20冊の写真集を企画、出版。手がけた写真集は、アルル国際フォトフェスティバル写真集賞などにノミネートされている。17年、自身の出身地・寧波(ニンポー)に非営利のフォト・ライブラリーを開館。国内外に精力的に中国の写真や写真家を紹介している。

フェスティバル/トーキョー17主催プログラム
アジアシリーズ vol.4 中国特集 チャイナ・ニューパワー

『チャイナ・ニューパワー — 中国ミレニアル世代 —』 トーク:写真、ユースカルチャー、ファッション、音楽

各分野の先駆者が自ら語る中国ミレニアルズとその近未来

日本のメディアがほとんど取り上げない、中国の今後を牽引するミレニアルズの実態をトークからも読み解く。「写真」「ユースカルチャー」「音楽」「ファッション」の4つのテーマのもと、今の中国のカルチャーシーン、ミレニアルズの動向をそれぞれのプロフェッショナルに聞く。

■「中国写真の世界 −ミレニアルズの写真家と自費出版の現状−」

日程:10/28(土)18:00 スピーカー:イエン・ヨウ You Yan(言 由)

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■「インディビジュアライゼーション:チャイナ・ユースカルチャーの流れ」

日程:10/29(日)13:30 スピーカー:チャン・アンディン Zafka Zhang(張 安定)

詳細・申し込み 

 

■「ミレニアルズの音楽家 −彼らは世界に何をもたらすのか?」

日程:11/4(土)13:30 スピーカー:シェン・リーホイ Lihui Shen(沈 黎暉)

詳細・申し込み 

 

■「中国ファッション界とミレニアルズのデザイナーの現状 −彼らの想いとは?−」

日程:11/11(土) 14:00  スピーカー:リュウ・シンシャー Tasha Liu(劉 馨遐)

詳細・申し込み 

 



『忉利天(とうりてん)』 構成・演出・美術:チェン・ティエンジュオ

古代神×クラブミュージック。熱狂と混沌の中に立ち上がる「いま」

彫刻や絵画といったファインアートから、グラフィックやファッションのデザインまで、縦横無尽にジャンルを行き来し、東西の多様な文化をミックスアップ、サイケデリックかつポップな作品に昇華するチェン・ティエンジュオ。英国留学を経て、ヨーロッパのレイブ、クラブシーンにも精通する彼が、これまでに発表してきたライブ・パフォーマンスを、劇場作品としてリ・クリエーションする。神々が跋扈する古代の世界と現代のクラブ・カルチャーとが邂逅し、出現させるまたとない空間に身をまかせよ!

日程:11/10 (金)、11/11 (土)

会場 あうるすぽっと 詳細・チケット


『恋 の 骨 折 り 損 ―空愛①場― 』 作・演出:スン・シャオシン

虚無と現実が交錯する夢の時間=「堕落部屋」からの実況中継

インターネットやポップカルチャーに耽溺する若者たちを描いた、中国小劇場演劇の最新形。禁欲の誓いを立てた青年たちが美しい貴婦人らに翻弄されるシェイクスピア戯曲と同名の本作。その舞台はファンシーグッズで溢れかえる「堕落部屋」だ。携帯電話やパソコンのライブ配信を通じ、日々、目に見えぬ誰かと戯れる少女たち。その自堕落な暮らしは、混沌や荒廃を思わせるが、彼女たちにとっては、それこそがパステルカラーに彩られた夢の時間だ。観客など存在しないかのように、ただ流れていく時の中、舞台と客席、バーチャルとリアルの境界線がゆっくりと溶けていく−−。


日程 
10月28日(土)、10月29日(日)
会場  スーパー・デラックス 詳細・チケット


『秋音之夜』
出演:リー・ダイグオ、シャオ・イエンペン、ワン・モン、ノヴァハート

日本初上陸の若手実力派ミュージシャンが集う贅沢な一夜

日本ではなかなか紹介されることのない、中国ミレニアル世代のミュージシャンを一堂に集めた音楽イベント。伝統楽器の琵琶、二胡の傍ら、ウッドベースやチェロ、口琴までも自在に演奏するリー・ダイグオ、VJワン・モンの映像とともに五感を刺激する空間をつくりあげるエレクトロニック・ミュージシャン、シャオ・イェンペンのほか、エレクトロ・ポップ・バンド、Nova Heartが参加し、アコースティック、エレクトロニック、バンドサウンドと、テイストの異なる、新世代の音の競演を繰り広げる。。

日程 11月3日(金・祝)、11月4日(土)
会場  スーパー・デラックス 詳細・チケット


フェスティバル/トーキョー17 演劇×ダンス×美術×音楽…に出会う、国際舞台芸術祭

名称: フェスティバル/トーキョー17 Festival/Tokyo 2017
会期: 平成29年(2017年)9月30日(土)~11月12日(日)44日間
会場: 東京芸術劇場、あうるすぽっと、PARADISE AIRほか

舞台芸術の魅力を多角的に提示する国内最大級の国際舞台芸術祭。第10回となるF/T17は、「新しい人 広い場所へ」をテーマとし、国内外から集結する同時代の優れた舞台作品の上演を軸に、各作品に関連したトーク、映画上映などのプログラムを展開します。 日本の舞台芸術シーンを牽引する演出家たちによる新作公演や、国境を越えたパートナーシップに基づく共同製作作品の上演、さらに引き続き東日本大震災の経験を経て生みだされた表現にも目を向けていきます。

最新情報は公式HPへ


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ディレクター・メッセージ: フェスティバル/トーキョー17開催に向けて 「新しい人 広い場所へ」