前田司郎、新作『迷子になるわ』を語る!

先日、池袋コミュニティ・カレッジにて五反田団の前田司郎さんによるトークイベントが行われました!


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08年『生きてるものはいないのか』で第53回岸田國士戯曲賞を受賞した前田司郎さんが、F/T10参加の新作で堂々の迷子宣言!今回のイベントでは前田さんの過去作品を参照しながら、迷子になる、その真意に迫りました!

小説を書くようになって、自分の書く戯曲を相対化するようになったという前田さん。この先どうしていくべきかということを考えた時に二つの選択肢があると考えたそうです。
一つのやり方としては洗練させていくこと。ノイズを減らして、シンプルで美しいものにしていくことによって「山の頂上」を目指すということ。もう一つは、反対に無駄な情報やノイズのようなもの(前田さん曰く、料理でいうとオクラの毛のようなとのこと)を増やしていって、山を下っていって「山のすそ野」を目指していく方向。「迷子になるわ」という宣言は、前田さん自身洗練していくこととのバランスに悩みながらも、後者の「山のすそ野」を目指すために産まれたフレーズのようです。

途中、映像で過去の作品を参照しつつ、お話を伺っていくとだんだんと新作の構想についての話にもなっていきました。

F/T09秋参加作品として上演した『生きてるものはいないのか』『生きてるものか』の二作品では生や死というテーマを感じさせる作品を発表した前田さん。最近考えているのは、自分の存在と記憶や時間の関係性について。

「自分って何でできているんだろうと思ったら、過去の記憶が形づくっているなと。今のこの瞬間だけの自分を切り取ってしまったら存在としてはとても薄っぺらい。でも過去とか未来があるから生きているとなんとなく感じるのであって。未来は無限のように感じられるが、実は未来が有限で、過去は自在に編纂できてしまう。自分の神話みたいな感じで構成し直していくらでも変えることができるから、過去こそ無限なのではないか」と語る前田さん。

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また、前田さんは生まれも育ちも東京で、もう30年以上も東京に住んでいらっしゃるということなのですが、今回執筆のかたわら東京の街をよく歩いているということです。大都市は地方に対して大きな顔をしているというイメージがありますが、出身者として東京に住んでいるとむしろ疎外感を感じることがあるそうで、家の周りに他の地域からやってくる人々が住むマンションなどが建設されていく様子を見ながら、東京は実は地方に浸食されていっていて地方の植民地みたい、というのが前田さんの感じているところだそうです。前田さんの演劇作品では、あまり具体的な土地や街が出てきたことはないそうですが、今回はそういった話も登場するかもしれません!

そして最後に注目なのは、すでに9月から配布を始めたチラシにも記載されていますが「結婚」についての話。前田さんは制度としての結婚に非常に興味を持っておられるそうで、同じ姓を名乗ることや、感情が共有されること、人間同士が混ざり合ったり、浸食、同化していって、別の存在=子供ができるというプロセスは、東京が地方に浸食されて形づくられる街と街の関係に重なるところがあるとも感じているということでした。

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お話は多岐に渡りましたが、前田さんおなじみの飄々とした語り口で、終始和やかな雰囲気のイベントとなりました。

劇場ではきっとそんな前田さん、そして五反田団の新たな一面を垣間見ることができるでしょう。
新作『迷子になるわ』、必見です!

(制作インターン)