カール・マルクス:資本論、第一巻
作品について カール・マルクス:資本論、第一巻 演出:ヘルガルド・ハウグ、ダニエル・ヴェツェル(リミニ・プロトコル)【ドイツ】

ドキュメンタリー演劇の手法で爆発的人気を誇るアーティスト集団リミニ・プロトコル。08年東京公演でも大旋風を巻き起こした『ムネモパーク』に続いて早速の再来日が実現!

リミニ流、「エキスパートによる演劇」

リミニ・プロトコルが発明した「エキスパートによる演劇」、それはプロの俳優ではなく、あるテーマに関するエキスパートがキャストとして舞台に登場するというもの。舞台上で語られる様々なエピソードは、彼らの経験や知識のもとに構成された「戯曲」でもある。今回、舞台に登場する8名の人々もプロの役者ではなく、いわば「資本論に関するエキスパートたち」、あるいは一見するとフツーの一般人たちだ。このキャストを見つけるために、ハウグとヴェツェルは1年間をリサーチに費やし、ベルリン・チューリッヒ・デュッセルドルフの3都市で実に多くの人々と面談、インタビューを実施した。自分の人生の一部をこの書物に捧げた人、内容や構成を熟知し今日も『資本論』を活用している人、『資本論』に対して生半可な知識あるいは偏見をもつ人、あるいはまったく無知・無関心の人…それぞれが『資本論』との多様な関わりをもっていた。

今回出演する8名のキャストたちは、それぞれ『資本論』とともに社会主義/資本主義のただ中で人生を歩んできた人々。マルクス主義経済史家、エリツィンの通訳も務めた翻訳家、盲目のテレフォン・オペレータ、革命を信じるアクティビスト、などなど。彼らは自らが専門としない演劇という舞台の上で、政治的にも社会的にもそれぞれ異なる立場から、分厚い『資本論』を片手に自らの人生を語りだす。

100年後の『資本論』

カール・マルクスが『資本論』を執筆してから1世紀以上が経った今日、20世紀を変えた究極のベストセラーは、私たちの生活にどのようなリアリティをもたらしているのだろうか? それがハウグとヴェツェルの最初の問いかけだ。この大著を実際に読んでいる人はどれだけいるのだろうか? もしいるとしたら彼らは、いったいなぜ、どんな事情で読んでいるのだろうか?

『資本論』から100年たった今、世界には驚くべき現実が氾濫している:
共産主義国家を標榜する中国では、資本主義が猛威をふるっている。テレビをつければ、アディダスのトレーニング・ウェアを着たカストロ姿が見える。トリアにあるマルクスの生家には観光客があふれ、「カール・マルクス赤ワイン」が飛ぶように売れている・・・。

この舞台は社会主義の葬送行進曲でもなく、舞台上の理論作りでもない。ハウグとヴェツェルは、大胆不敵にもカール・マルクスの著作と全く同じタイトルの作品を、決して大文字の歴史には顔を出さない個々人の人生から描きだしていく。

東京バージョンについて

今回の東京公演にあたっては、リミニ・プロトコルのメンバーが事前に来日し、『資本論』に関係する人々にインタビューを実施。今日の日本における『資本論』受容のあり様を知る一方で、奇しくも日本でも蟹工船ブームが起こるなど、格差社会に対する問題意識が強まっている昨今、この特別東京バージョンは、日本のリアルをどう映し出すか、注目が集まる。