作品について

身体で探す、むきだしの“今”。04年朝日舞台芸術賞受賞作をリ・クリエーション

初の振付作品『SIDE B』が「ランコントル・コレグラフェック・アンテルナショナル・ドゥ・セーヌ・サン・ドニ(旧バニョレ国際振付賞)ヨコハマプラットホーム」、「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2003」、「SPACダンス・フェスティバル2003」などで名だたる芸術賞を次々と受賞し、鮮烈なデビューを飾った振付家・ダンサー黒田育世。
ダンサーの特権的身体を必要としないコンセプチュアルな作品が増える近年のコンテンポラリーダンス界において、黒田はあくまでも身体に執着し、研ぎ澄まされた身体感覚を武器に、ダンス界に衝撃を与え続けている。彼女が率いる女性のみのカンパニー「BATIK(バティック)」のメンバーは全員クラシックバレエのテクニックをベースに持つ。ダンサーは毎回体力の限界まで踊り続け、身体を取り繕えない状況にまで追い込まれる。その瞬間、身体はその境界を失い、裏側に潜むものをさらけ出す。
また、黒田の創る作品は、よく「生々しい」と形容される。内部で起こった衝動を踊りにする過程において、彼女はその衝動をオブラートで包んだり、振付の中で美しく昇華したりはしない。衝動を衝動のまま、「性」を「性」とし、「生」を「生」のまま観客の前に提示する。その圧倒的な熱量に観客は心を揺り動かされるのだ。

大幅なリ・クリエーションを経て再演される『花は流れて時は固まる』

出世作にして代表作『花は流れて時は固まる』は、04年3月にパークタワー・ネクスト・ダンス・フェスティバルで初演された。黒田ならではの振付や主題を捉える眼の独創性、構成力の高さはもちろん、ダンサーがはしごを登って落下を繰り返す痛々しいまでに鮮烈なクライマックスシーンが話題を集めた。 本作の軸となるのは黒田自身が幼少期に感じていた、「時間が止まる感覚」。あまりに力みすぎて気を失いそうになる瞬間、時が割れ、時間のない世界が立ち現れる、その刹那の感覚を追い求める。 我々が生きる上で時間は断ち切ることができない。また、時間は過去の執着や未来への期待、ありとあらゆる感情と複雑に絡み存在するもの。本作では、それら一切の感情を時間から剥ぎ取り、「今、この一瞬」をむき出しにする。 フェスティバル/トーキョーでの再演にあたっては、大幅なリ・クリエーションが行われ、初演時の衝撃を更にパワーアップさせる。通常の舞台空間とは違い、もともとは中学校の体育館であるにしすがも創造舎の特設劇場では、黒田の優れた空間構成力も発揮されるだろう。 海外のフェスティバル・劇場ディレクターも多く来日するフェスティバル/トーキョーでの上演は、黒田が日本を代表するコンテンポラリーダンスの振付家として、これから世界に羽ばたいていくための大きなチャレンジにもなるはずだ。