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2022/06/27

トーク 「舞台芸術はアーカイブ アウトロ 「なぜ残す? なぜ蘇る?」

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(テキスト・河野桃子)

アーカイビングF/T オンライン連続トーク

「舞台芸術はアーカイブ:消えるものの残し方と活かし方」

アウトロ「アーカイブの彼方に」

18:50-19:15


長島 確・中島那奈子



長島 あっという間の5時間で、明らかに時間が足りませんでした。最後にまとめ……をするのは難しいとは思いますが、振り返ってみましょう。


中島 いろんな角度からアーカイブについてお話ししましたが、まだいろんな問題がありますよね。権利や、トラウマなどのネガティブなことや、アーカイブに入らないものなど、ポコポコと思い浮かびます。今日のところはいろんな角度から「アーカイブを作る人」と「アーカイブを活用する人」という立場でお話ししていただき、やはりその二つは繋がってくるなと感じました。最後のセッション4で「アーキビストがレスポンダーになる」という話も出ましたが、アーカイブを作るということは活用することなのかなとも考えます。


長島 最後のセッション4を聞いて、最初のセッション1で三浦さんが話していた「過去の戯曲を現代でどう上演するのか」という時間の距離感について思い出しました。セッション2の須藤さんも「映像を残すことで100年後にどう届けるか」と長い時間の距離についてお話していた。またセッション3のシャープさんに実践の過程の一部を見せていただき、残っているものや残ってないものを今に繋げるのは追体験なのか、再現なのか、再創造なのか……その方法についてもいろいろあるんだなと考えました。最後のセッション4では、長距離のロングパスのコミュニケーションが自分に返ってくるということや、自分自身がレスポンダーになるということについて、「生きている間のアーカイブ」というとても不思議なことが起こるなと感じました。記録すること自体がなにかを生み出してしまって、世界が増殖し続けていく。絶対に記録が追いつけないという気がしました。



フェスティバルが考えるアーカイブとは


長島 また、トークの最初の頃に、全体に関わるようなコメントを頂いてたのでかいつまんで紹介します。「アーカイブという言葉にもいろんな面があって、資料の整理や保存、とくに公的な記録の場合は「全部きちんとファイリングして残す」という側面がある。お金や、様々なことの経緯など、大事な証拠になるからきちんとして残していくものだ」と。このコメントをくださった方によると「海外の公立劇場等では途中で発生した資料は公文書に当たるのでボックスに入れて保管していく」ということがあるそうです。これらの保存と、舞台写真などの記録や保管はまた違うかもしれない。再演のために装置や衣装を取っておくことはあるけれど、それはまた種類が違う。さらに、舞台の上演当時の実態やイベント性や、それを復元できるのかということは、アーカイブといってもまたずいぶん違う話なんだなということをご指摘いただきました。

 

また、今日のトークの最初に「いろんなことがでてきて散らかる一方で、まとめられるような広がりではないと思っている」ということを言いましたが、「でもどこかで今回のアーカイブがどの辺を考えようとしてるのか整理していただければ嬉しいです」と途中でコメントいただきました。そのことについては、アーカイブと言っても関わっている分野によってそもそもの理解が違うので定義は必要ですよね。舞台芸術、美術、歴史学、文書を扱う公的機関などでそれぞれ言っていることのすれ違いも起きかねない。そこでの用語の整理や、それぞれが実際にアーカイブについて何をしているのかをちゃんと横断的に知れるようにするといいんだなと、少なくともわかっていない僕としては思いました。その上で、やはりパフォーミングアーツは消えてしまうことが前提なので、どういう形で継承・反復・ループしていくのかを考えていくと、単に保管や保全や保存というよりはなにか新しい創作的な面が関わってくる気がしています。映像の編集や撮り方もそうだし、アーカイブボックスの試みもそう。そうやって絶えざるリ・クリエーションのようなことが起こるのは避けられないんだろうな。避けられないのなら、その面白さをもガンガン試したり考えたりできたらいいんだろうなとあらためて思いました。……大丈夫かな、情報が多くてもう脳が焼けているので(笑)。

 

中島 (笑)。その点で私が思ったことは、このトーク企画もふくめて、F/Tという舞台芸術のフェスティバルを行っている視点で考える「アーカイブ」ということです。長島さんが言う「新しい創作的な面が関わる」というのは、やはりフェスティバルが考えるアーカイブが、クリエイターやアーティストのためだという面がすごく大きいんじゃないでしょうか。通常だと、アーカイブと言えば研究者やその後に調査をする人のために作られる傾向があると思うんです。でも、クリエイターにとってもアーカイブは活用しうるものですよね。フェスティバルが「アーカイブ」と言うときに、その部分がとても大事だと思います。


さらに言うと、F/Tは場所をあまり固定化させないで移動するフェスティバルということなので、アーカイブを一か所に固定させないことはひとつのポイントとしてあるように思います。ひとつに固定すると必ず権力が発生するという問題があるし、フェスティバルの視点から、クリエイティブにアーカイブを考えていくことが重要なのではないかなと思いました。


長島 ハッとしました。固定させないということについて、F/Tは結果として特定の固定された劇場でやるフェスティバルではなかった。F/Tの前半の時期にはにしすがも創造舎という拠点があったけれど、そのころもその後もほかの劇場や劇場外でもいろんなことをやってきたので、最初から分散してはいたんですよね。


固定させると権力が発生することに関しては、良くも悪くも怖い話です。逆に権力や権威があることできちんと整えられたりすることもあると思う。須藤さんが「中央のアーカイブ」と「周辺のアーカイブ」という面白い言い方をしてたけれど、たとえば歴史のような大きなものを中央が整えて残していくことは、お金や手間や権威付けなどの実現可能性としてあり得ると思う。でも一方で、権威や権力とは違うところで、各自のトライのような形でいろんなものが残ったり続いていくことはある。うわあ……目から煙が出ている気がします(笑)


今日はそもそも結論が出る話ではないので、いろんな面白い実践や、実感を伴ったゲストの話が聞けてむしろ散らかったんじゃないかと思います。舞台芸術がどういうふうに、何かを残したり継承したり作り変えたり作り出したりしていくのかは、とても面白い根本的な話ですね。最初も言いましたが、2年のパンデミックがまだ続いてる状況下で、ナマでその場で見せるのではない形で何ができるのかはまだまだ手探りの余地がある。そこを考える材料また入口として、とても長くかつ時間の足りない今日のトークが役に立つといいなと思います。 最後に、「使う」ということが大事なんだなと思いました。使い手がいたり、誰かが使い道を発見したり、受け取った側がなににどう活かすかといったことが大事なポイントで、そこがなければ残っていても無いも同じなのかなとも思いました。

 

中島 そうですね。ユニ・ホン・シャープさんが言っていた「現実をサバイブする」ために、過去を使って過去の亡霊を蘇らせるということもひとつポイントなような気がします。とくにコロナ禍で舞台芸術の状況が非常に厳しいなかで、私達は遺産をどういうふうに活用しなきゃいけないかという局面に立たされているんでしょうね、きっと。

 

長島 ありがとうございます。おかげですごく充実した一日になりました。これでオンライン連続トークを終わりにします。ご視聴いただいた方も本当にありがとうございました。

 

(テキスト・河野桃子)

 

長島確

専門はパフォーミングアーツにおけるドラマツルギー。大学院在学中、サミュエル・ベケットの後期散文作品を研究・翻訳するかたわら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇の現場に関わり始める。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、演劇、ダンス、オペラからアートプロジェクトまでさまざまな集団創作の場に参加。フェスティバル/トーキョーでは2018〜2020年、共同ディレクターの河合千佳と2人体制でディレクターを務める。現在東京芸術祭副総合ディレクター。

中島那奈子

老いと踊りの研究と創作を支えるドラマトゥルクとして国内外で活躍。プロジェクトに「イヴォンヌ・レイナーを巡るパフォーマティヴ・エクシビジョン」(京都芸術劇場春秋座2017)、レクチャーパフォーマンス「能からTrio Aへ」(名古屋能楽堂2021)。2019/20年ベルリン自由大学ヴァレスカ・ゲルト記念招聘教授。編著に『老いと踊り』、近年ダンスドラマトゥルギーのサイト(http://www.dancedramaturgy.org)を開設。2017年アメリカドラマトゥルク協会エリオットヘイズ賞特別賞。

アーカイビングF/T オンライン連続トーク
「舞台芸術はアーカイブ:消えるものの残し方と活かし方」

日程 ライブ配信:2022年3月5日(土)14:00-19:15
<配信は終了しました>

アーカイビングF/T

フェスティバル/トーキョー(F/T)は、2009年から2020年まで、13回にわたって開催されました。舞台芸術を中心に、上演・上映プログラム数204、関連イベントもあわせ、のべ77万人の観客と出会ってきました。これらの出来事を通じて、国内外にまたがる多くの人々や作品が交差し、さまざまな活動・交流の膨大な結節点が生み出されました。 上演作品やイベントは、「もの」として保存ができません。参加者や観客との間で起こった「こと」は、その場かぎりで消えていきます。しかしそのつど、ほんのわずかに世界を変えます。その変化はつながって、あるいは枝分かれして、あちこちに種子を運び、芽ばえていきます。 F/Tは何を育んできたのでしょうか。過去の記録が未来の変化の種子や養分になることを願い、13回の開催に含まれる情報を保存し、Webサイトを中心にF/Tのアーカイブ化を行います。情報や記事を検索できるデータベースを作成し、その過程で過去の上演映像セレクションの期間限定公開や、シンポジウムを開催します。

 
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