>   > 「コーヒーのある風景」から場を育むユニットが、茶室と出会う L PACK.(小田桐奨、中嶋哲矢)
2018/10/27

「コーヒーのある風景」から場を育むユニットが、茶室と出会う L PACK.(小田桐奨、中嶋哲矢)

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(文・内田伸一)

「コーヒーのある風景」から場を育むユニットが、茶室と出会うL PACK.(小田桐奨、中嶋哲矢)

「コーヒーのある風景」をきっかけに人々が交わる場を生み出し、まちの要素の一部となることを目指す。そんなテーマを掲げて各地のアートプロジェクトやレジデンスプログラム、展覧会等に関わるのが、L PACK.(小田桐奨、中嶋哲矢)だ。従来のアーティスト像を超えて活動する「新しい人」といえる彼らが、F/T18では「まちなかパフォーマンス」のひとつとして目白庭園で茶会と展示に挑む。タイトルの『定吉と金兵衛』が示唆するとおり、原案は古典落語『茶の湯』。商家の隠居が小僧を相手に知ったかぶりで始めた茶の湯が、ひどい勘違いのまま周囲を巻き込んでいく。そんな喜劇をもとに、彼らはどんなお点前で私たちを迎えてくれるのか?


「一杯のコーヒー」を建築の最小単位とする

ー F/T18での『定吉と金兵衛』は、目白庭園の茶室・赤鳥庵を使った「茶会」と展示からなるプログラムですね。「L PACK.がパフォーマンス?」「F/Tで茶会?」など謎も多いのですが、まずはこれまでお二人がどんな考えをベースに活動してきたかを伺えますか。

 

中嶋 僕らは静岡文化芸術大学の空間造形学科で、同級生でした。そこでは建築を学びましたが、実現予定のない建物の図面や模型づくりを頑張っても、そこにリアリティがなかなか持てなかったんですね。何かもっと、現場寄りのところへの興味が強くなっていきました。加えて、とにかく「ハコありき」でつくる建築だけでは、今の時代に合わないのではとも感じていて。すでに各所で空き家がとても多くなり、一方でスクラップ&ビルドは続いている。そうした状況にも違和感がありました。

 

小田桐 そんな時期に、近くのあるレストランがひとつのきっかけになりました。老夫婦が営む店で、川沿いの古い倉庫を旦那さんが自ら改装して、レストランとギャラリーとゲストルームにしていました。今のようにセルフリノベーションが盛んになる前、ごく早い事例だったのかなと思います。

 

中嶋 それが衝撃的で、自然とコーヒーやお昼ご飯に行くようになりました。そのうち、ランチの対応が一息ついてコーヒーブレイクになると、そのおじさんが僕らの隣に座って、インテリアやデザイン、美術などの話をしてくれるようになって。

 

ー 粋な課外授業ですね。それが、お二人が食や会話を意識した場づくりに進むきっかけに?

 

小田桐 そうですね。今に通じる最初のプロジェクトということでは、2006年に二人で協働した卒業制作「L PROJECT」だと思います。

 

中嶋 お話したような経緯から、現実に人が集まれる場を僕らの「建築」として提案したいと考えました。まず、卒業に伴い引越予定の友人たちから、ソファやテーブル、椅子などを借りたりもらったりしました。また、彼らが愛用したコーヒーカップも、全部で50個ほど集めました。それらを使って大学の広場で、10日間だけのカフェを開いたんです。「みんなが使ってきた家具を並べ、僕らがコーヒーを淹れるので、使ってください」という場にしてみました。

 

 

ーそれは楽しそうですね。でもこれを卒制にするのは、やはり学校側では物議を醸した?

 

中嶋 そうですね。二人組での卒制も、内容的にも前例がなかったようで。でも、そうしたハードルを超えていくのも、さっきお話しした「リアリティ」だと思うんです。ある場所での「こういうことがしたい」を実現させるために、大学事務局に企画書を提出し、大学の守衛さんなどにも事情を話して交渉する。それは授業では体験したことのない、小さくても実社会とつながる感覚のある体験で、結構やりがいがありました。

 

卒業制作展に合わせてカフェをオープンしたので、展覧会の待ち合わせ場所にもなり、友人たちはもちろん、近隣の方々と思しきお客さんもきてくれました。守衛部屋の目の前だったので、守衛さんも利用してくれて。あと先生たちもふつうに、打ち合わせや休憩に使ってくれましたね。

 

ー 「さて、この二人は卒業させてよいものか」みたいな打ち合わせだったのかも……。

 

小田桐 (笑)。ちなみに最終的には、追試的なレポートも提出することでぶじ卒業できました。

「わらしべ長者」的に活動を広げた10余年

小田桐 その後、今日までの約10年は、振り返る間もなく活動が次へ次へとつながっていった感じです。その最初のきっかけは、Nadegata Instant Party(地域コミュニティにコミットし、市民演劇からネットTV局まで、ある「口実」の達成を目指して参加者を巻き込み、出来事を「現実」につくりあげるアートユニット)のプロジェクトへの参加でした。

 

中嶋 卒制でのフラットなプラットフォームづくりを、大学の先輩でナデガタの野田ちゃん(野田智子)が面白がってくれて。彼らの東京での最初のプロジェクト「インストールパーティー」展に誘ってくれました。そこでまた新しいつながりが生まれ、 次のプロジェクトの機会が……という感じです。

 

ー例を挙げると、横浜黄金町で元旅館を活用した「竜宮美術旅館」(2010-2012)や、アーティストの奈良美智さんらが一日店長を務める日もあった「VISITOR CENTER AND STAND CAFE」(あいちトリエンナーレ2013。青田真也とのユニット・NAKAYOSI名義のプロジェクト)など、アーティストや地域と関わりつつ、多彩な場づくりを続けていますね。

 

中嶋 「以前のあの場所は面白かったね」と声をかけてもらうことは多くて、ちょっと「わらしべ長者」みたいでもありますね(笑)。今回F/Tからお誘いをいただいたのも、それがめぐりめぐってというふうに感じています。

 

ー 協働も多く、その相手もミュージシャンのテニスコーツから七宝作家の近藤健一さんまで、多岐に渡っています。こうした領域横断的な活動について、自分たちではどうとらえていますか?

 

中嶋 すべてのスキマを縫って、いろんな分野を横断していく、そんな存在でありたいです。今回のプロジェクトも、「それってパフォーマンスになるのですか?」と聞かれたら、つい「いいえ」と言いたくなる天邪鬼ですが(笑)、それはジャンルに縛られない活動をしたいことも関係しています。様々な領域の縁(ふち)をなぞりつつ、色々なことをやってみたい気持ちが強いんですね。

 

その際、コーヒーは僕らにとって、それさえあれば場づくりを始められる便利な道具のような存在です。そこから空間が広がり、ある時間を人々と共有できる。そしてコーヒーというのは、淹れて、味わって、飲み干したら終わる。そういうところも、何か腑に落ちるところが多いなと思っています。

 

小田桐 ある表現領域の魅力を全く知らない人たちに対して、作品がその空間にあり、もしかしたら作家本人もそこにいて、互いにコーヒーを飲みつつ同じ時間を共有できる場をつくれたらという思いもあります。そういう人たちと一緒に、美術館やギャラリーとも違う場を新しくつくれるのではないか。

 

その際に、面白いことがなるべく起きそうな「余白」は常に意識しています。これは仕向けるというより、期待するという感じですが。また、期間限定のプロジェクトも多いですが、公的な活動期間を終えた後も、そこでの出会いをもとに発展していった場所もあります。一応「L PACK.」自体は死ぬまで続けようということでやっていて、それが今後どう変化していくのかは、まだ僕らにもわかりません。

 

ー 個々のプロジェクトと同時に、その総体もL PACK.の表現ということですね。

「勘違い」に誘われた茶の湯との出会い

ー それではF/T18でのプロジェクト「定吉と金兵衛」について伺います。落語の古典『茶の湯』を原案に、目白庭園の茶室・赤鳥庵で「茶会」と展示を行うそうですね。

 

中嶋 最初のきっかけは、去年新潟の長岡駅周辺の商店街で開催されたフェスティバル「ヤングアート長岡」に招かれた際の体験です。現地リサーチで長岡はお茶も有名な所だと知り、そこから落語の『茶の湯』も知りました。そうしてリサーチの中で見つけたものが結びついて、プロジェクトの形になっていくことが僕らの場合は多いんですね。

 

ー 開催に先立って9月16日、東京国立博物館九条館の茶室に三遊亭遊子さんを迎えての『茶の湯』上演会&トークも行われました。その軽妙な語り口を通じて、この噺の面白さは、最後まで正しい作法は使われず「勘違い」のまま終わるところではと思いました。招かれる町人たちもそうで、その勘違いがお百姓にまで広がってしまう。お二人はこうした話のどこに惹かれたのでしょう?

 

中嶋 最初はそうした勘違いが、僕らが初めて長岡市に入った時、 当地の日常用具や習慣の中に、初めて見る不思議なものが数多くあった体験と重なる気がしたんです。たとえば、消防車についているようなホースが各家庭の壁から外に出ている。これは冬の融雪用としてなのですが、それが奇妙な光景に感じられて。そこで、これを出発点にインスタレーションを行いました。そのホースを茶道でいう路地への打ち水の道具に見立てたりして、「勘違い」だけで生まれた空間です。

 

 

小田桐 今回はその続編を考えていた際にF/Tのお話があり、かつ茶室が使えるかもしれないというので、僕らの考えた「茶会」を実現できることになりました。僕は、落語という表現がくれる、想像力の余白のようなものに惹かれます。また、お茶は貴族文化だったものが、やがて庶民にも広まったという流れが実際にあり、他方でああした勘違いも起こり得るのは面白いなと。F/Tに訪れる人々も、普段からアートや舞台芸術が好きでよく知っている人、それって何?という人、色々な方がいると思います。また、日本中あちこちで芸術祭が開かれているなかで、いわゆる現代アートと、よくテレビで出てくる「アート」のようなものとの距離もありますよね。

 

ー 現代の諸相にも重なるものとして、色々なとらえ方ができる?

 

小田桐 はい。ただ、今回の茶席について言うと、素人とはいえ僕らもそれなりに茶道のことを見聞きしているから、大きな勘違いは難しいですよね。そこで、あえての勘違いを生じさせるような意味合いで、日本語の同音異義語を要所要所で使おうとしています。たとえば、お茶の席で取る姿勢の「正座」を、一度ひらがなにして、そこから「星座」に置き換える。具体的にはギリシャ神話におけるみずがめ座の話を、茶会に入れ込もうと考えています。全能神ゼウスが地球の美少年ガニュメーデースを神々の宴のための給仕にする話です。茶会の主人がゼウスで、小僧の定吉的な役割がガニュメーデース(みずがめ座は、給仕するガニュメーデースの姿に見立てられた星座)。そして茶会の客人たちはオリュムポスの神々——そんなことを考えています。

領域を超え/つなげ/広げていく

ー そうすると『定吉と金兵衛』は、複層的な見立てや確信犯的な勘違いも織り込んだ、一種の参加劇と想像すればよいでしょうか。

 

中嶋 そうですね。セレモニーとしての茶会の進行と、 落語の『茶の湯』の時間軸、たとえば上演前後のお囃子などもミックスされたものになりそうです。できるだけ言葉を使わず、空間で生じる音などを生かしたコミュニケーションができればとも考えています。また、茶会に参加しない方達も、茶会の部屋を囲む雪見障子を通して、その様子を伺い見ることができるようにしたい。さらに開場中いつでも見られる展示も加える予定です。

 

ー お二人自らが、その茶会の席主を務めるのでしょうか。

 

小田桐 実はそこはまだ相談中です。特に近年のプロジェクトでは、僕らがいなくても、場が問題なく機能するシステムを意識して作っていて、同じ考え方もありかなと思います。

 


中嶋
 僕らも「出演」とクレジットされてはいますが、受付をしているかもしれないし、終わった後に「今日はありがとうございました」と出てくるのもいいかもしれない。一方で、お客さんたちも重要な役割を担う場合がありそうです。

 

ー 他のアーティストとの協働は今回もありそうですか?

 

中嶋 はい。茶会の席ではその日に使う道具などを紹介する流れがあるのを受けて、今回はあるタイミングで、関わってくれたアーティストたちのことがわかる仕組みになると思います。

 

ー ちなみに、やはり茶会といってもL PACK.なので、コーヒーがふるまわれる?

 

中嶋 コーヒー……のようなもの、が出てくるのではと思います(笑)。

 

ー 気のおけない柔らかな関係性を象徴するようなコーヒーに対して、茶の湯はあるルールを基礎に行われる奥の深いコミュニケーションとして、多くの芸術家の関心を引いてきた領域とも言えますね。今回、コーヒーとお茶をめぐるこうした違いゆえの面白さやチャレンジはありますか?

 

中嶋 たしかに違いはありますね。まず、僕らがふだんコーヒーを起点につくる場は、訪れる人それぞれのペースで時間が進んでいく。でも今回は、始まりと終わりが一定の時間で区切られます。逆にその違いをどう活かせるか、考えているところです。

 

小田桐 でも、実はエチオピアには「コーヒーセレモニー」というのもあって。女性が行うもので、お茶と同様、決まった流れのなかでコーヒーを楽しむ会です。できればそうした要素も入れ込んでいきたいですね。基本的に僕は、これまでやったことのないものに楽しさを感じる方なので、そこで苦しむこともありますが、今回は本当に楽しみです。

 

お茶の世界の方々が見たら「全然違うよ!」となるかもしれませんが、それも外の人間だからこそできることかもしれない。そこから、ふだんから茶の湯に親しんでいる人たちとも話ができたら嬉しいです。僕らの活動は形ある「モノ」をほとんどつくらないぶん、「コーヒーのある風景」ということ以外は毎回、必然的に新しくなってしまうとも言えます。今回はそのあたりも改めて振り返りつつ、 自分たちが持っているものを、もうひとつ別のかたちでお見せできるのではないかなという感じはあります。

 

ー 新しいフィールドへの挑戦が、同時に自分たちのこれまでを再確認する機会にもなるということですね。開催を楽しみにしています。



(文・内田伸一)

 L PACK.(エルパック) 

 小田桐奨と中嶋哲矢によるユニット。共に1984年生まれ、静岡文化芸術大学空間造形学科卒。最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた「コーヒーのある風景」をきっかけに、まちの要素の一部となることを目指す。各地のプロジェクトやレジデンスプログラム、エキシビションに参加。

まちなかパフォーマンスシリーズ L PACK.『定吉と金兵衛』

公演名 まちなかパフォーマンスシリーズ
L PACK.『定吉と金兵衛』
日程 茶会
10/31 (Wed) 15:00 / 19:00
11/1 (Thu) 休演日
11/2 (Fri) 15:00 / 19:00
11/3 (Sat) 11:00 / 15:00 / 19:00

展示 
10/31 (Wed) 14:30 - 19:00
11/1 (Thu) 休演日
11/2 (Fri) 14:30 - 19:00
11/3 (Sat) 10:30 - 19:00

会場 豊島区立目白庭園 赤鳥庵

国際舞台芸術祭フェスティバル/トーキョー18

名称 フェスティバル/トーキョー18 Festival/Tokyo 2018
会期 平成30年(2018年)10月13日(土)~11月18日(日)37日間
会場 東京芸術劇場、あうるすぽっと、南池袋公園ほか
 
 
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ピックアップ記事

ドキュントメント『Changes』レビュー (夏目深雪)

(文:夏目深雪) あなたは世界である 山本卓卓の『Changes』はとりあえずドキュメンタリー映画であると言っていいだろ...

[続きをみる]

ドキュントメント『Changes』レビュー (鈴木理映子)

文/鈴木理映子 『Changes』で変わるものは−− 俳優・田中美希恵が痩せていく過程を、かつて所属した劇団の主宰がカメ...

[続きをみる]

ドキュントメント『Changes』レビュー (佐々木敦)

文/佐々木敦 範宙遊泳山本卓卓初監督映画、ドキュントメント、あとはタイトルしか知り得ない状態で試写を観たのだが、いかにも...

[続きをみる]

「ボンプン・イン・トーキョー」ポルポト政権下で失われたカンボジアの文化とアイデンティティーの再構築を目指して

文/大石始 撮影/鈴木渉 3日間で14万人を動員、若い世代からの圧倒的支持を集めている注目のフェス「ボンプン(Bonn ...

[続きをみる]

カテゴリ