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2018/10/18

昭和の香りが残る三ノ輪橋までぶらり旅 福田 毅 

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(聞き手・文:萩原雄太 撮影:鈴木 渉)

昭和の香りが残る三ノ輪橋までぶらり旅 

今年、フェスティバル/トーキョーの「まちなかパフォーマンスシリーズ」において『ラジオ太平洋』を発表する福田毅さん。一昨年の『ふくちゃんねる』では、池袋のカフェを舞台に、世界の名作戯曲を通信販売形式で紹介するというスタイルの作品を上演、昨年の『アドベンチャーBINGO!!』では、あうるすぽっとのホワイエを舞台にして、マンガ・映画・昔話からオリジナルの物語までビンゴの形でランダムに演じるなど、風変わりな作品の数々を上演してきました。そんな福田さんが、新作『ラジオ太平洋』を上演するのは、なんと「都電荒川線」の中。早稲田から三ノ輪橋まで、60分をかけてののどかな下町を走る路面電車の中では、タイトル通り、ラジオの公開生放送が行われる……とか。

 

そこで、今回は作品の終着点となる三ノ輪の街を福田さんに案内してもらいながら、作品について解説していただきました。昔ながらの生活が残る三ノ輪を、福田さんはどのような視点から見つめているのでしょうか?



都電での上演は今までにないチャレンジ

都電荒川線の三ノ輪橋停留所を降り立つと、出迎えてくれるのはレトロな雰囲気の駅舎。まるで昭和の時代にタイムスリップしたかのような錯覚にとらわれます。同じ都内でありながら、用事がなければほとんど降りることのない三ノ輪という街。そこは、お年寄りたちが井戸端会議をし、駅前の駄菓子屋では子どもたちが駆け回っているような、昔ながらの生活が息づく街でした。

 

今年の6月に都電荒川線での上演が決まってから、足繁く都電に乗車して作品の構想を練っているという福田さん。もともと、松戸の出身ですが、ご両親の実家が亀有と金町ということもあり、下町のゴミゴミとした風景には馴染み深いとか。作品創作の過程では、三ノ輪の街にも何度も足を運び、いくつもの気になるスポットも発見しているそうです。

 

福田 まずは、お気に入りの祠に行ってみましょう。

 


と紹介されたのは、稲荷を祀った小さなほこら。街の片隅に小さく置かれたそれは、地域の方々によって手入れをされており、人間だけでなく、なんと猫も参拝に訪れていました。

 

福田 ところどころ朽ちていて、決してキレイとは言えませんが、地域の人々がDIYでつくって大切にしている雰囲気が感じられますよね。僕が発見しただけでも、駅周辺には、半径50メートル以内に3つも祠があります。別の祠では、お稲荷さんを祀っているのに、竜神も一緒に祀られているんです。きっと、隅田川が近いから、竜の神様を祀っているのかもしれませんね。

 
今回、『ラジオ太平洋』を創作するにあたって上演空間として選ばれた都電荒川線は、都内に唯一残る都電として、住民の生活と密着しながら走っている路線。そこで演劇を上演することは、決して低いハードルではなかったようです。

 

福田 演劇をやっている人の多くは、この場所を使ってなにか作品を上演しろと言われたらどうするか妄想します。喫茶店なら、レストランなら、お風呂なら……と、普段からいろいろな妄想を膨らませてきました。でも、電車の中だけは、なかなか浮かばないんです。というのも、電車の中は人が常に入れ替わるし、風景も常に変わるからとてつもなく情報量が多い。ただ、3年にわたってフェスティバル/トーキョーで作品を上演するチャンスをもらい、どこでやるかと考えたときに、今までにないチャレンジをしたかった。そこで、都電荒川線の車内という場所が浮かび上がってきたんです。

 

これまでの作品よりも、はるかに高いハードルを自らに課した今作。当然、その構想を練るにあたっては、様々な苦難が待ち構えていました。そして、試行錯誤を重ねながら、創作の過程において福田さんが発見したのが「音」というキーワードだったのです。

 

福田 上演することが決まってから、一度、貸し切りの状態で都電に乗せてもらう機会があったんです。そのときに印象的だったのが耳に飛び込んでくる音の数々。電車のモーター音だけでなく、近くを走る車の音、踏切の音、学生たちの喋り声など、都電に乗っているとさまざまな音が聞こえてきます。そんな音を活かす方向で作品をつくることができないか……と考え、生まれたのがラジオという発想でした。今回の作品は、ラジオの公開生放送という形ですが、実際に音声が配信され、都電に乗っていない人でも楽しむことができます。ただし、ラジオと乗車しての体験は全く別物になる。乗車してからラジオのアーカイブを聞けば、きっと、全然違う体験が味わってもらえるんじゃないかな。



作品の「借景」として街を捉える

三ノ輪橋停留所のすぐ近くには、明治通りが通っています。この明治通りを歩いていると、福田さんは、こんな土地の歴史を紹介してくれました。

 

福田 そもそも地下鉄日比谷線の駅は「三ノ輪」なのに、荒川線の停留所の名前は「三ノ輪橋」になっていますよね。これって少し変じゃないですか? 調べてみると、明治時代までは「三ノ輪橋」という橋が実在していました。現在は暗渠となっている音無川にかけられていたのが三ノ輪橋だったんです。

 

都電で上演するにあたって、都電沿線の街の特徴や歴史などのリサーチを重ねている福田さん。しかし、そんなリサーチを重ねながらも、福田さんは「あまり街と作品をくっつけすぎるのはおもしろくない」と語ります。

 

街を舞台にした演劇は、近年世界中で数多く創作されており、福田さん自身もこれまで、中野成樹さんによってフェスティバル/トーキョー13で上演された四谷怪談を下敷きにしたツアーパフォーマンス作品『四谷雑談集』『四家の怪談』や、墨田区、豊島区、三宅島など、実在の街や建物にギリシャ劇の家族をインストールした長島確さんによるプロジェクト『アトレウス家』などに参加してきました。しかし、今回、彼自身が創作する今回の作品では、それらの作品とは街との関わり方も大きく異なるようです。

 

福田 例えば、ツアー形式の作品では、昔の歴史を絡めてつくられる作品が多いですよね。もちろん、それによっていい作品をつくっているアーティストはたくさんいますが、それは、僕が生半可にやるべきことではない。僕が街と関わるときには、街を「借景」として使うことを大事に考えています。作品の前面に据えるのではなく、背景として街を捉えることで、もっと作品の世界が豊かになるような形を想定しているんです。

 

では、街を背景にしたラジオで語られるのは、どんな内容なのでしょうか?

 

福田 ネタバレをしないように作品の内容を伝えるのが難しいのですが……(苦笑)。僕にとって、演劇のいいところは「嘘」であること。「ここは江戸時代です」と言ったら、演劇の世界では江戸時代になってしまいますよね。そういった嘘を随所に散りばめていくつもり。演劇なのだから、2018年に放送しているラジオに、安土桃山時代からメールが来てもいいはずです(笑)。それに、ラジオって、集中しすぎずに、リラックスして聞けるよさもある。車窓の風景を眺めたり、街の音を聞きながら、ぼんやりとパフォーマンスも見てもらうというような形が理想的かもしれませんね。



雑音と協和する「粋」な作品

次に福田さんが案内するのが、数百メートルにわたってアーケードが続く商店街「ジョイフル三ノ輪」。ここには、八百屋、肉屋、パン屋、コーヒー屋、銭湯など昔ながらのお店がひっきりなしに並んでいます。土日にもなると、まっすぐ歩けないほど多くの方々が買い物に訪れるとか。

 

福田 地方に行くと、寂れた商店街も多くなってしまいましたが、三ノ輪の商店街はいまだに多くの方で賑わっています。この銭湯なんて、地元の人じゃないと入るのになかなか勇気がいりますよね(笑)。

 

散策をしながらも、福田さんの目には、銭湯の煙突や時代を感じさせる蔵、風変わりな名前のお店など、おもしろそうなものはないかと、常に目を光らせています。

 

福田 それなりに街歩きの作品に関わってきたので、センサーが鍛えられているんです。そもそも街を使った作品は、無理やりこちらの意図を当てはめようとすると大玉砕してしまうもの。稽古場で作り込みすぎると、現地では全然通用しなくなってしまうんです。最低限の基礎は作っておいて、後は流れに身を任せるといった心構えでなければ、街を使った作品は絶対に魅力的なものにならないし、千秋楽が終わるまで作品が変化していくことも楽しまなければならない。今回も、稽古が行き詰まると、稽古場で集中して考えるのではなく都電に乗って気分を変えるようにしています。

 


長い商店街を抜けると、そこには弁財天を祀った祠がありました。もともと、その名も「弁天湯」という銭湯の中庭に置かれていたというこの弁財天。しかし、数年前に銭湯が廃業してしまったことから、現在の場所に移設されたといいます。ところで、弁財天といえば、言わずとしれた芸能の神様。福田さんも、取材スタッフとともに弁財天に公演の成功を祈願していました。

 こうして、三ノ輪の街をぐるりと歩き回ってみると、入り組んだ街の中に、人々の生活が浮かび上がってきます。下町のいちばんの魅力は、雑多な町並みの中から生活が垣間見えてくること。そして、『ラジオ太平洋』においても、そんな「雑音」ことが大事だと福田さんは語ります。

 

福田 都電の中で上演するにあたって、劇場で上演されるように、作品として「強い」ものをぶつけてしまうと、街の音や電車の揺れなどはすぐにかき消されてしまいます。それは、僕にとって「粋」な作品とは言えない。都電荒川線の中には、街の音があり、電車の揺れもある。さまざまなノイズがある状況の中で、ノイズと調和しながら作品を作っていくのが僕にとっての粋なんです。

 

公演が終わって三ノ輪で降りた後には、まっすぐ帰るのではなく、少し散策して行ってほしいなと思っています。『ラジオ太平洋』で語られるストーリーは、きっと散策をする際の「おもしろい眼鏡」となってくれるはず。観客は「作品の中で言ってたのはこれか」と気づくでしょう。終わった後にも1時間くらい余裕をもって、散策をしながら帰ってもらうと、より作品を楽しんでもらえますよ。

 
早稲田から三ノ輪まで乗車時間は60分。その間に、いったいどんな体験が待ち受けているのでしょうか?都電の風景とともに作られ、街とともに語られる『ラジオ太平洋』の本当の魅力は、本番が終わった後、三ノ輪の街を歩きながら、ふと感じられるものなのかもしれません。


(聞き手・文:萩原雄太 撮影:鈴木 渉)


萩原雄太
1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・フリーライター。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。

福田 毅

福田 毅

中野成樹+フランケンズ所属。劇団公演のほか『From the Sea』(F/T14)など、客演も多数。2009年よりソロ・パフォーマンスを開始、近作にTwitterに書きとめた寓話を構成した『鷹』、同作の改訂版『かも』(共に2015)。まちなかパフォーマンスシリーズ(F/T16、17)では、カフェや劇場のロビーを会場に上演を実施。2018年3月にはショーケース公演『Step into my home』(急な坂スタジオ・ジャパンファウンデーションシドニー)にて海外初進出。

まちなかパフォーマンスシリーズ
ラジオ太平洋


演出 出演

福田 毅
日程 10/27(Sat)14:00  
10/28(Sun)14:00
11/10(Sat)14:00
11/11(Sun)14:00
会場 東京さくらトラム(都電荒川線)車内
受付場所:東京さくらトラム(都電荒川線)早稲田停留場
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