リミニ・プロトコル演出家ダニエル・ヴェッツェルが語る!
『100% トーキョー』トーク@東京ドイツ文化センター レポート

11月29日(金)~ 12月1日(日)、東京芸術劇場プレイハウスに100人の舞台経験のない東京都民が集まり上演される、リミニ・プロトコル演出『100% トーキョー』
11月18日(月)には、来日したばかりのリミニ・プロトコル演出家ダニエル・ヴェッツェル氏をお迎えして、東京ドイツ文化センターでトークが開催されました。

登壇者は以下の4名。
ダニエル・ヴェッツェル(演出家/リミニ・プロトコル)
相馬千秋(フェスティバル/トーキョー プログラムディレクター)
中村和幸(明治大学総合数理学部 准教授)
セバスチャン・ブロイ(ドラマトゥルク)
そして萩原健(明治大学国際日本学部 准教授)氏が司会兼通訳を務めました。

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リミニ・プロトコルは2000年にフランクフルトで結成されたシュテファン・ケーギ(Stefan Kaegi)、ヘルガルド・ハウグ(Helgard Haug)、ダニエル・ヴェッツェル (Daniel Wetzel) の3人の演出家によるアートプロジェクト・ユニットです。公共空間におけるパフォーマンスやドキュメンタリー演劇の手法を用いた型破りなプロジェクトの数々で世界の注目を集めています。
『カール・マルクス:資本論、第一巻』(F/T09春)、『Cargo Tokyo-Yokohama』(F/T09秋)に続き本作品で3回目のF/T参加となるリミニ・プロトコル。なぜ彼らの作品を度々取り上げるのか、F/Tプログラム・ディレクターの相馬が話しました。

 F/Tは毎回、その年のテーマを提示し、それに基づいて招聘するアーティストを決めたり、プログラムの構成を決めたりしています。テーマに示されるコンセプトは、「演劇とは何か」という問いに始まり、「もし演劇が社会的に有効であるならばそれはどういった形であるのか」ということについて、フェスティバルを通じて考えようとするものです。リミニ・プロトコルやPort Bの高山明さんの作品など、F/Tによく登場する作品はポストドラマ的な演劇や、ドキュメンタリーを素材にした演劇が多いです。彼らがやっていることは、私たちが自分たちに掲げた問いに向き合い、考えを深めるための、最も強力な試みの一つであると考えています。

つぎに今回の上演作品である『100%◯◯』シリーズが始まったそもそものきっかけについて、ダニエルが話してくれました。

 5年前に行った『100% ベルリン』がきっかけです。ベルリンのHAU劇場創設100年を祝うために、何かプロジェクトをやらないかと声をかけてもらい制作しました。100人のベルリン市民を年齢や性別など5つのカテゴリーにわけて集めて、舞台上で様々な質問を投げかけ、YES/NOで答えてもらいました。このときはこのプロジェクトを続けるつもりはありませんでした。
そこから2年後、ウィーンのフェスティバルに呼ばれた際、ベルリンのプロジェクトをウィーンの市民でやってみたらどうなるか見てみたいとの提案を受け、やってみることになりました。これがきっかけで、その後世界各国でこの100%シリーズを上演することとなりました。

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普段はプロの俳優たちがお芝居をするためにあがる舞台で、芝居経験のない100人の市民が、彼らの言葉で彼ら自身について語る「だけ」のこの作品。実際『100% トーキョー』のキャスティングでは、舞台経験者、演劇関係者の方の出演はお断りしました。しかしダニエルは、出演者100人が舞台上で何も表現しないわけではないのだと言います。「彼らは役者のように想像上の役を表現するわけではないが、何も表現していないわけでもないんだ。だって彼らは彼らの住むその街を体現することになるのだから。」

会場では過去の100%シリーズの作品映像を見ながら、それぞれの都市でどのような問いを投げかけてきたのか、ダニエルが解説してくれました。その一部をご紹介しますので、このブログを読んでいる皆さんも、はい/いいえで答えてみてください!

『100% チューリヒ』で問われた質問の一部
・無賃乗車をしたことがある
・法律を破ったことがある
・株を持っている
・逮捕されたことがある
・死刑宣告を受けた事がある
・暴力の犠牲者だったことがある
・暴力をふるったことがある
・家族を守る為なら人を殺す
・すべてが今のままであることを望む
・一生ものの愛を探している途中だ
・人の命を救った事がある
・誰かが死ぬのを看取った事がある
・自殺をしようと考えた事がある
・薬を飲んでいる
・製薬会社が私たちを病気にしていると思う
・10年後に生きていないと思う
・30年後に生きていないと思う
・70年後に生きていないと思う

質問は、ダニエルたちがあらかじめ用意するものもありますが、出演者が自分の聞きたい事を好きに質問していい時間もあります。
・宗教団体に所属している人
・この国をおさめることを想像できる人
・アフガニスタン戦争に賛成である人
・SNSをやっている人
・国民投票に賛成の人
・臓器提供の意思を表明している人

また、観客が出演者に質問を投げかける事もできます。
・出生前診断に賛成の人
・自分の死ぬときを自分で選びたい人
・原子力発電に賛成の人
・今日嘘をついた人(多くの出演者がYESと回答していました!)
・劇場に来たのが初めてだという人(こちらも多数がYESと回答)

出演者が観客に質問するコーナーを設けた都市もあります。
連邦憲法裁判所や連邦裁判所の所在地でドイツの「司法首都」となっているカールスルーエという都市で100%シリーズが上演されたときは、国の有力者や政治家などが観客として招かれ、そうそうたる顔ぶれが劇場に集まったといいます。そこで出演者のみなさんは、普段はなかなか政治家に聞けないことを、ジョークを交えて質問しました。
・私たちに町を代表されていると感じる人?
・普段から統計を読む人?
・ 統計をインチキする人?
これには政治家の皆さんも大爆笑でした!


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この日のトーク会場には、リミニ・プロトコルのファンという方も、今日初めて知ったという方もいらっしゃっていましたが、皆さん映像を観て興味津々。会場からもダニエルに様々な質問が飛びました。

Q:各都市で質問は同じなのですか? 

ダニエル:都市ごとに新しく質問を作り直します。ただ、都市が都市を自己観察するというこの作品の性格上、似通った質問が多くある場合もあります。質問を投げかける順番も重要なので、都市ごとに考えます。たとえばどの政党に属しているか、政治活動を行っているか、宗教組織に関わっているか、などの質問は、質問の順番によって結果が変わってくるので注意が必要です。


Q:各都市の特徴が際立つような質問はありますか?

ダニエル:たとえば死刑に関する質問は、その国の方針や文化的な考え方が顕著に現れます。死刑がない国は、死刑に賛成する人が多いです。ドイツでは、100%シリーズを行ったどこの街でも2〜6人くらいは死刑をもう一度導入しても良いと考えているようでした。賛成なのは保守的なおじさんか若い女性が多かったです。


Q:いくら一般市民だと言っても、舞台の上で「求められている答え」を意識せずに正直に答えることができるのでしょうか?舞台上に真実は示されるのでしょうか?

ダニエル:それぞれの都市では数回上演を行いますが、その日によってその人の動き方が異なる場合があります。前日にはYESと言っていたのに別の日にはNOと言う人もいるのです。そういうときは、「誰か大切な人が観に来ているんだな」と思います。
『100% コペンハーゲン』に出演した方で、病気で余命宣告を受けていて「3年後生きていると思いますか」という質問にいつもNOと答えていた50代の男性がいました。でも、ある回で娘さんが観に来たとき、その方はいつもの回答はしませんでした。
このことから見えて来たことは、それぞれの出演者はただ質問に答えるだけでなく、上演ごとに考えて動いている、ということです。「わたしは癌である」という質問に、最初は一人しかYESと答えていなかったのに、次の晩には二人になっていたこともあります。その日その回の作品上演の代表として、考えて動くことがあってもいいと私は思っています。
舞台の上で真実が示されるかということについては非常に答えるのが難しいですが...この作品は素朴に考えればアンケートを舞台上でするというだけの話です。生身の人間が100人集まるわけですから、世論調査とまったく同じような結果が舞台にあがる場合もあれば、そうでない場合もあります。ただ、僕は世論調査のバイトをしたことがあって、そのときから世論調査は信じていないので(笑)、最終的には出演者の「顔」が見えるような舞台を作ることを目指しています。


Q:東京で避けた方がいいと思っている質問やテーマはありますか?

ダニエル:その都市にとって、市民にとってデリケートな質問というのはどこでもあります。ただ、それが見えてくるのは稽古が始まってからの事で、今の時点では見えていません。100人の出演者がうまく機能するような質問であること、というのが質問を選定する際の一つの重要な判断基準となるので、稽古中に一部の人たちにとって気分が悪くなるような質問が発見されれば、それを避けて構成を考えます。


Q:この作品の目的は、何かメッセージを伝えたり人を感動させるということなのですか?それとも各都市の統計を示すということですか?

ダニエル:観に来てくれた方を感動させたいという気持ちとデータを示したいという気持ちの両方です。ただ、これはリミニの他の作品にも共通していることですが、何かを強要しているつもりはありません。100人の出演者を使ってある特定のメッセージを伝えようというつもりもありません。舞台にあがる人たちに、東京に住むとはどういうことなのか考えてもらいたい。そして観客の皆さんにも、舞台上の誰かに自分を投影して、東京のことについて皆で考えてみてもらいたい。そういう気持ちで制作しています。


100%シリーズの舞台では、頭上に大きくYES/NOもしくはME/NOT MEとサインが掲げられ、質問される度に人々が動き自分の意思を体で示します。円形の舞台で人々が左と右に分かれる様子を上から撮影した映像を観ていると、それはさながら生きた円形グラフのようです。
11月25日現在、100人の日本の皆さんとの稽古真っ最中のダニエル。18日のトークでは、日本人の性格を知ってか「日本ではYESとNOのあいだで答えを出せずに足が止まってしまう人もいるかもしれないから、まずは稽古で皆と仲良くなりたいな」と語ってくれました。

『100% トーキョー』ではどんな質問が飛び出すのか、そして100人の東京都民はそれに答えて行くのか!?まったく予想がつかないこの作品、上演は11月29日(金)~ 12月1日(日)の3日間、3ステージのみ!
ご来場の皆様には、『100% トーキョー』のスペシャルブックも配布されます。出演者100名のプロフィールのほかに、東京のさまざまな事柄に関する統計データを表した、中村和幸先生監修のインフォグラフも掲載されていて、こちらも今の「トーキョー」を知る貴重な1冊となりそうです!
このときここでしか観られない「トーキョー」のリアルな姿を、どうぞお見逃しなく!!

『100% トーキョー』PVはこちらからご覧下さい
リハーサルの様子とダニエル・ヴェッツェルのインタビューも公開しています!

  • by F/Tスタッフ
  • F/T13
  • 2013年11月27日