【Daily dialogue】Vol.3第1回森山ゼミ 松田正隆さんと考えた演劇のリアリティ

演劇史を現在の舞台芸術にどう接続していくかを考えるゼミ形式のダイアローグ企画『森山ゼミ』が10月30日、東京芸術劇場・F/Tインフォメーションで行われました。講師は、演劇評論家で、京都造形大学舞台芸術学科の森山直人教授。初回のこの日は、『第1回 演劇はなぜ〈リアル〉なのか―領域横断的なアプローチのために』と題して講義を行い、19世紀末から現代にいたる舞台芸術史を俯瞰しながら演劇のリアリティについて資料を元にレクチャーした後、後半ではマレビトの会代表でF/T参加アーティストでもある松田正隆氏を招き、実際の制作過程を追いながら演劇的リアリティとは何かを問いかけました。



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冒頭、森山教授は、平田オリザ氏の現代口語演劇や、セミドキュメンタリー手法の演劇を挙げ、「90年代以降、演劇がリアリティという言葉の周辺で語られるようになった」と話し、俳優・登場人物のリアリティの危機の系譜を、19世紀末のマラルメの演劇論、20世紀の現代美術や映画の「演劇観」(マイケル・フリード、クリスチャン・メッツ)から説き起こしました。その中で、「登場人物は、現代演劇の中には、『人物』としてよりも、言語の効果として立ち現れる曖昧な存在である場合もある。また、19世紀末以来の『俳優批判』の典型的なパターンは、『俳優という生身の存在が、観客の架空の物語へと向おうとする想像力を遮蔽してしまう』というものだが、それをひっくり返すとブレヒトの異化効果に繋がる」などと解説。松田さんは、これを受け「俳優が登場人物を演じるという枠組み以外の演劇を作ってきた。(レクチャーを聴いて)かゆい所に手が届いた感じです。訓練された役者ではなく、素人を使うという現象に興味があり、そういう方向へ創作がシフトしていった」と話していました。



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その後、F/T10でも上演された『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』の上演映像などを見ながら、創作にいたった思考的過程を語ってくださった松田さん。さらに今回F/Tで発表する『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』に至るまでの変化そのものが、演劇とリアリティをめぐる新しい試みの連続でした。


満席の会場からは、"訓練されていない役者"を好んで使うという松田さんに、「俳優はだれでもいいんですか?」などというような率直な疑問も投げかけられ、参加者の"演劇愛"が伝わってきたところでタイムアウト。ディスカッションは第2回に持ちこされました。


 

松田正隆さんが主宰するマレビトの会『アンティゴネ―への旅の記録とその上演』は、11月15日―18日、にしすがも創造舎で上演されます。