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Director’s Message
ディレクターメッセージ


別の通路の集合体

まだ東京国際芸術祭(TIF)という名称だった2000年代前半にこのフェスティバルに触れるようになって、当時ディレクターだった市村作知雄氏が言っていた、アートは政治や経済とは別の通路になるべきだという考えに強く感化された。その考えはディレクターが交代し、フェスティバルの名称が変わっても生きつづけていると思うし、2018年に私自身がディレクターを引き受けることになったときにも、まっ先に意識したことのひとつだ。

ただしこの考えは、フェスティバル自体を変化させることなしには継承することができないものだ。「別の」というのが重要なポイントで、政治情勢も経済状況もつねに変動するものだから、どことの間をつなぐどんな通路が必要かは、その時々でたえず考えつづけなければならない。当然その判断を含め、芸術祭は政治や経済と無関係ではありえず、むしろ政治や経済の一部として、その大局の影響を大きく受けながら、あえて「別種の」政治的判断をし、「別種の」経済価値(金銭とは限らない)を探求していくということだ。

アートは自律した世界などではない。紛れもない現実の一部だが、同時に、それを通してこの現実とは違う現実を体験することができる。アートは権威をかざし威張るためのツールでもない。開いた通路をとおして、見えなかった姿を見せ合い、聞こえなかった声を聞き合い、何よりも通路で結ばれた双方が窒息せずに息をするためのものだ。広くさまざまなところと接続した「別の」通路の集合体として芸術祭はこれからも機能するべきだと信じている。



専門はパフォーミングアーツにおけるドラマツルギー。大学院在学中、サミュエル・ベケットの後期散文作品を研究・翻訳するかたわら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇の現場に関わり始める。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、演劇、ダンス、オペラからアートプロジェクトまでさまざまな集団創作の場に参加。フェスティバル/トーキョーでは2018〜2020年、共同ディレクターの河合千佳と2人体制でディレクターを務める。現在東京芸術祭副総合ディレクター。

長島 確