ディレクターズメッセージ

からだの速度で

からだの速度というものがあります。

わたしたちはこの数世紀(または遙か古代から)、速さを求めてきました。いかに速く移動するか、いかに早く知るか、いかに早く手に入れるか。その欲望の絶え間ない追求の結果、高速化・効率化が進み、生活が便利になったのは間違いありません。

しかしその一方、ますます加速する世界に対して、からだが悲鳴を上げているのも確かです。この数年にかぎってみても、情報の速度はさらに上がり、つられて感情のレスポンスだけは一瞬で噴き上がるようになったけれど、それに比べて、わたしたちのからだの速度は、おそらくほとんど変わっていません。物理的・物体的なからだには、移動するにも、成長するにも、やっぱりかかる時間があります。

では遅くすればいいのか。そんな単純な話でもないはずです。とくにこの東京という巨大都市で、すべてをスローにしようというのは、それはそれでナンセンスです。そもそもわたしたちのからだの速度も一様ではありません。速いときもあれば遅いときもある。幼いからだもあれば老いたからだもある。そこにさらに、人ではないもの、からだのないものの速度が加わって、無数の速度のバリエーションとグラデーションの共存する複合体として、この巨大都市はある。

パフォーミングアーツは、物体として残る作品をつくるジャンルではないけれど、からだの速度で、からだから生まれてくるものを通して、わたしたちの生を見つめます。つかのまでも、そんなパフォーミングアーツによって、都市を構想できないものか。フェスティバルはそのための時間です。

ディレクター 長島 確/共同ディレクター 河合千佳

プロフィール

長島 確 Kaku Nagashima

1969年東京生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒。大学院在学中、ベケットの後期散文作品を研究・翻訳するかたわら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇に関わるようになる。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、さまざまな演出家や振付家の作品に参加。近年は演劇の発想やノウハウを劇場外に持ち出すことに興味をもち、アートプロジェクトにも積極的に関わる。参加した主な劇場作品に『アトミック・サバイバー』(阿部初美演出、TIF2007)、『4.48 サイコシス』(飴屋法水演出、F/T09秋)、『フィガロの結婚』(菅尾友演出、日生オペラ2012)、『効率学のススメ』(新国立劇場、ジョン・マグラー演出)、『DOUBLE TOMORROW』(ファビアン・プリオヴィル演出、演劇集団円)、『マザー・マザー・マザー』(中野成樹+フランケンズ、CIRCULATION KYOTO)ほか。主な劇場外での作品・プロジェクトに「アトレウス家」シリーズ、『長島確のつくりかた研究所』(ともに東京アートポイント計画)、「ザ・ワールド」(大橋可也&ダンサーズ)、『←(やじるし)』(さいたまトリエンナーレ2016)、『まちと劇場の技術交換所』(穂の国とよはし芸術劇場PLAT)など。18年度より、F/Tディレクター。東京芸術祭2018より「プランニングチーム」メンバー、東京藝術大学音楽環境創造科特別招聘教授。

河合千佳 Chika Kawai

武蔵野美術大学卒。劇団制作として、新作公演、国内ツアー、海外共同製作を担当。企画製作会社勤務、フリーランスを経て、2007年にNPO法人アートネットワーク・ジャパン(ANJ)入社、川崎市アートセンター準備室に配属。「芸術を創造し、発信する劇場」のコンセプトのもと、新作クリエーション、海外招聘、若手アーティスト支援プログラムの設計を担当。また同時に、開館から5年にわたり、劇場の制度設計や管理運営業務にも携わる。12年、フェスティバル/トーキョー実行委員会事務局に配属。日本を含むアジアの若手アーティストを対象とした公募プログラムや、海外共同製作作品を担当。また公演制作に加え、事務局運営担当として、行政および協力企業とのパートナーシップ構築、ファンドレイズ業務にも従事。15年度より副ディレクター。18年度より、F/T共同ディレクター。東京芸術祭2018より「プランニングチーム」メンバー、日本大学芸術学部演劇学科非常勤講師。

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