フェスティバル/トーキョー16
境界を越えて、新しい人へ

 ディレクターよりメッセージ 市村 作知雄

 

今年もようやく開催することを告知できることとなった。ここまで非常に長い時間がかかったような気がするが、なにはともあれ、嵐の海に船を漕ぎだす勇気を失わないようにしよう。

世界が壊れていく予感がますます強まっていて、そんな時にアートはどのような位置を保つことができるのだろうか。そんな危機感とともに、ここは少し「新しい世代」の人々に委ねてみたいという思いが高まっている。私は、すでにかなり年をとってきてしまったが、新しい人々に手渡すモデルをここ数年で作ってみたい。というのは、新しい人々は、すでに社会の人口のかなり大きな部分を占めているが、残念なことに社会的なパワーもポストもまだまだ古い人々が握っている。しかし、これから20年くらいの間に確実に新しい人々と入れ替わることになる。新しい人とは何かというフェスティバル/トーキョー16の根幹となるコンセプトは、やがて早々に発表するつもりである。

ともあれ、F/T16から、なんとか一世代若いアーティストの発掘に本格的にとりかかろうと思う。フェスティバル/トーキョー14、15、16のプログラムは、いくつかのカテゴリーで成立していて、すこし種明かしをしてみよう。もちろん、種明かしをするということは、同時に将来的には、それを捨ててしまいたいという思いがこめられているのだが――

1番目は、メインプログラムで、通常はヨーロッパからの大きめの作品を招聘している。今回はポーランドの世界的巨匠クリスチャン・ルパがこれにあたる。2番目は、国際交流基金アジアセンターと共催しているアジアシリーズで、今回はマレーシア特集となる。これはセゾン文化財団の協力のもと、森下スタジオを全館使ってやれることを期待しているが、今の時点ではまだ高いハードルを乗り越えねばならない。さらに近々特集を組む計画をしている中国も頭出ししてある。3番目は、日本のメインとなるプログラムで、今回は松田正隆氏を中心とする「マレビトの会」で、これは新しい人材の出現も期待する長期プロジェクトとなるはずである。さらにイデビアン・クルーのダンスは、「にしすがも創造舎」ヘのサンキュー&グッドバイプログラムの意も込められている。4番目は子どもから大人まで親子で観劇できるプログラムで、今年は福田毅氏(中野成樹+フランケンズ)の一人芝居をレストランで開催する。5番目は観客参加型のアートプロジェクトで、マレーシア特集の中での「カードゲーム」。民族、政治傾向等でカテゴライズされたカードによるゲームで、多数の有権者を集めれば勝ちとなる。6番目は、震災関連の企画で、今年も「フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園」を開催する。3年連続となるが、これで最後。先にあげたマレビトの会も「福島を上演する」。7番目は、付随するプログラムで、シンポジウム、講座や学生等の参加企画は、今後ますます重要性が増すだろう。

最後は、どれにも限定されないプログラムで、今回は3種ある。一つ目はドイツダンスの特集で、我々とドイツ文化センターとの長い長い友好から生まれたものである。二つ目は、韓国から招聘するパク・グニョン氏の作品で、ソウル文化財団南山アートセンターとの協力で開催するものである。これは昨年来韓国で起きている政府によるアートへの強い介入に抗する形でソウル文化財団南山アートセンターとパク・グニョン氏が固い決意のもとに公演に漕ぎ着けたもので、それに協力する意義を認めて招聘した。3つ目は、池袋東口での展開である。池袋東口からグリーン大通りを経て500m先に豊島区役所と「あうるすぽっと」が存在する。その途中には南池袋公園が新設され、そこにRacines FARM to PARKというカフェもオープンした。豊島区はその地域を国家戦略特区として規制緩和に成功、「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」を策定し、まちを劇場化しようとしている。F/Tもそれに呼応し、2016以降池袋東口で大きなプロジェクトを計画している。今年は、岡田利規作・演出、稲継美保による一人芝居、森川弘和氏らによるダンス作品、福田毅氏の一人芝居、山本卓卓(範宙遊泳)と北尾亘(Baobab)による作品を計画し、今後計画しているピチェ・クランチェン氏(タイ)と日本人ダンサーによるグリーン大通り全体を使ったダンス作品につなげようとしている。

F/Tは、ふと立ち止まって、少し考えてからまた全力疾走するための準備をしている。本当の祭りは長い準備の果てに、突然はじまるものであるが、F/Tは、祭りをやりながら、同時に長い準備のなかにいる。