ホーム / F/T11 F/T主催作品 / 無防備映画都市―ルール地方三部作 第二部 / 本プログラムについて

本プログラムについて

ルール地方三部作について

ドイツ西部にあるルール地方。炭坑地域・重工業地帯として19世紀後半の急激な経済成長を経てきたこの地域は、1970年代からの石炭需要衰退による失業をはじめとする産業構造の変化による社会問題が、西ドイツで最もはっきり表れた地域である。ドイツの作家・演出家、ルネ・ポレシュは産業社会の終わりかつ構造変化の困難を象徴するこの地方に、2008年より1年毎に3年間、製作、発表した『ルール地方三部作』を捧げた。

今回日本で上演される第二部の製作にあたりポレシュがインスピレーションを得たのは、爆撃で破壊された都市を撮ったロベルト・ロッセリーニ監督の「戦争三部作」(1945年「無防備都市」 、46年「戦火のかなた」、48年「ドイツ零年」)。ポレシュは戦争による破壊と恐怖、戦後の都市に生きる人々の現実を凝視する撮影手法が世界中に衝撃を与えたロッセリーニの「ネオレアリズモ」をモチーフに、過去の映画の台詞やシチュエーションを多数引用し、「現実と虚構」、「歴史と個人」、「都市と地方」という概念についての問いかけを行う。

本公演では、豊洲の巨大な空き地に映画撮影所が出現。そこに男女のキャスト5人が扮する映画撮影クルーが到着し、撮影を始める。だがそこで撮影される映画の登場人物、ストーリー、場面はどこか不明瞭ではっきりとしない......。ここはルール地方のかつて工業地域だった空き地なのか? ローマの巨大撮影場「チネチッタ」なのか? 一体キャストは何を撮影しているのか? 映画と演劇の合間で奇妙なフィクションの時間が広がっていく。

叫ばれるモノローグ、繰り返される遊び......そこに潜む現実への深い思索

巨大都市における生活、21世紀の労働、資本主義が生むヒステリー......現代人の生活をテーマに、演劇の臨界点に挑み続けるポレシュ。彼が作・演出を手掛ける作品では、アカデミックな理論とテレビの娯楽番組などの引用がないまぜになり、ダイナミックで強烈、そして時にヒステリックとさえいえるような世界観をつくっていく。
アウトソーシング、グローバル化、ネットワーキング等、資本主義社会を象徴する表現を利用しながら、資本主義やメディアによって表象される社会の矛盾、ジレンマを取り上げていく作品に登場する人々は、いつも過大な要求や期待に応えることを迫られた現代人たちだ。彼らはくだらない冗談を言ったり、激しく怒ったりしながら、自分を取り巻く世界の実体をつかみ、確認しようとするが、その「人生」や「物語」はいつも見つからず、人々はそれを探し続けるしかない。
時にドタバタ喜劇のようなシーンを挟みながら猛烈なスピードで展開するこのスペクタクルに飲み込まれながら、観客は現実を生きる自分たちが抱える諸問題へのポレシュの痛切な怒りと深い思索を目撃することになる。

都市と郊外をつなぐ仮設劇場―ベルト・ノイマンによる舞台美術

『無防備映画都市』の舞台美術を手がけるのは、ドイツ語圏で最も功績を重ねてきた舞台美術家の一人、ベルト・ノイマン。『ルール地方三部作』の舞台美術は、ノイマンが00年のハノーバー万博のために創作した『Rolling Road Show』のセットを発展させたもの。テント、コンテナ数本、キャンピングカー等を含むこの『Rolling Road Show』は移動型のコンテナ劇場で、都市の中心と郊外を繋げるプロジェクトとして実施された。劇場などあり得ないような場所にも、一時的に公共の広場を作り出すこの試みは、上演にかかわる出演者とスタッフ、そこに訪れる観客やその土地の地域住民たちの新たな出会いと関係を生み出していった。
東京公演の会場は豊洲の広大な空き地。東京のビル群を借景に据えたベルト・ノイマンが手がける野外ならではの大胆な空間設計が、劇空間の新たな可能性を切り拓くことだろう。

ベルト・ノイマン
舞台美術

1960年マグデブルク(ドイツ)生まれ、東ベルリン育ち。 ベルリン美術大学を卒業後、フリーランスで活動。92年より、ベルリン、フォルクスビューネのチーフ舞台美術家に就任。ヨッシ・ヴィーラー、フランク・カストルフ、ペーター・コンヴィチュニーやルネ・ポレッシュといった第一線で活動する演出家と共に定期的に仕事をしている。舞台美術家・衣装デザイナーとして、ウィ-ン市によるカインツ勲章、ベルリン新聞の評論家賞、プロイセン海外商事財団によるベルリン演劇賞等、数多くの賞を受賞。「テアター・ホイテ」では、繰り返し年間最優秀舞台美術家に選ばれている。2009年よりベルリン芸術アカデミー会員。