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本プログラムについて

フランス演劇界に新風を吹き込んだ『別れの唄』の平田オリザと、ヨーロッパ各地の演劇祭を破竹の勢いで席巻するアミール・レザ・コへスタニ。そして 二人の活動に強い関心を持つにいたったブザンソン国立演劇センター芸術監督のシルヴァン・モーリス。お互いの出会いが世界の演劇の常識-すなわちテキスト による芸術の常識を覆すと信じて、時間をかけて対話を繰り返し、強固な作品構造を生み出した。

その1.平田オリザ作・演出『クリスマス・イン・テヘラン』(新作)

第1のパートは平田オリザ定番のウェルメイドな現代口語演劇小作品。
テヘラン郊外、1979年のイスラム革命前に、アメリカ資本のもと建設されたスキーリゾートホテルは、いまでは人気も下火となり、ひっそりと営業を続けて いる。再開発に乗り出そうとする日本の企業からは、社員とホテルマン(女性)が送り込まれ、経営再建のエキスパートでもある敏腕ホテル支配人をフランスか ら呼び寄せる。彼に続いて妻、そしてひそかに支配人と関係を持つ妻の妹もスキー場に到着する。かつて子供をなくした日本人の夫妻。リゾートホテルを守って きたイラン人従業員。そしてホテル再開発の鍵を握るイラン人オーナー夫妻・・・。
クリスマスイブの夜を、遠く異教の地で迎える人々。それぞれの集団が抱える人間関係と 宗教観の交錯に明快に描きだす。

その2.アミール・レザ・コへスタニ作・演出 『サン・ミゲルの魚』

第2のパートでは、コへスタニが斬新な手法を用いて3ヶ国の言語が紡いだ「世界」を脱構築する。平田の描く『クリスマス・イン・テヘラン』を演じた 9名の俳優、3ヶ国の言語。その楽屋裏の混乱をデフォルメしつつ、観客も一番気になる俳優たちの異文化交流との構造による創作の混沌を描く。コミュニケー ション・ツールとしての言語が音声としてのみ役割を得る時、文字が記号としての役割を果たしきれない時、それらを頼りに舞台上で相対する俳優たちはどのよ うに繋がっていくのか、あるいは隔てられていくのか。

その3.プロローグ・エピローグ シルヴァン・モーリス

平田とコヘスタニ、それぞれの作品を結びつけるのは、モーリスによる、ドキュメンタリータッチのプロローグとエピローグ。日本人とイラン人の作・演 出家を起用し、「みんなで力をあわせて」ひとつの作品創りに挑む西洋人演出家の妄想を淡々と描く。三人の演出家による、日本・イラン・フランスのメタ・メ タ演劇の創作の成功のあかつきには、『ユートピア』が待っている? 険しい道のりに果敢にも世界で最初に乗り出した男、シルヴァン・モーリスをカメラが追う。