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本プログラムについて

2000年「バニョレ国際振付賞」を受賞し、06年には振付家の登竜門「トヨタ・コレオグラフィーアワード2006」で最高賞を受賞した白井剛が、京都芸術センターの招きにより2ヶ月間に渡る京都での滞在制作を行い、2年ぶりとなる新作を発表。
白井は「緊張感のある構成力、および独創的な方法論を兼ね備え、また自己を見つめて作品を創りあげる力を持つ振付家」として評され、これまで発表してきた 作品でも、ダンスが持つ既成のテクニックや語彙に拠らない独自の手法を、映像や音楽、声をも採り入れ編み出してきている。繊細であり強靭、しかしどこか温 かく思わずクスリと笑ってしまう独特の時空間を生み出す作品は他の追随を許さない。そんな彼が今回は自身独自の手法すら越境する、「ダンスそのものの新た な発明」を試みる。既成の論理や手法を根本から問い直し、ダンス×他者、ダンス×音楽、ダンス×テキスト、それぞれの関係を手掛かりに、新たなダンスの幕 開けを目指す。

白井作品と音楽

白井剛は近年、ダンスと音楽のコラボレーション作品を多数発表してきている。その中でも、世界最高の現代音楽カルテット「アルディッティ弦楽四重奏 団」とコラボレーションした、ジョン・ケージの『アパートメントハウス1776』は、音楽界、ダンス界ともに注目され高い評価を得ており、2006年の初 演以降、日本各地で再演を重ねている。また、07年に発表した『THECO-ザコ』では、野村誠をはじめ、個性豊かなミュージシャンらと共演し、視覚化で きない音と視覚化されるダンスを溶融させ、単なるコラボレーションにとどまらない新たな可能性を持つ作品を生み出した。本作品でも、クラシック、ジャズ、 エレクトロニカといったジャンルレスな音楽をどのように"振付"するのか、必見である。

実力派ダンサーとのコラボレーション

出演するダンサー、寺田みさこと鈴木ユキオは、ダンサーとしてはもちろん、振付家としても共に高い評価を得ている、実力派のアーティストである。
寺田は幼いころからバレエを学んでおり、端正な容姿としなやかな動きが醸し出す彼女の踊りは力強く、またコケティッシュな魅力を兼ね備えている。
鈴木は「トヨタ・コレオグラフィーアワード2008」にてグランプリを受賞。いま最も注目される気鋭ダンサーである。この、いま旬のダンサーの共演もまた本作の見どころである。

京都芸術センター「演劇計画」との共同製作

今回のこのプロダクションは、演出家の発掘・育成に焦点を当てた企画、「演劇計画」(京都芸術センター主催)との共同製作により実現。"演出とは何 か?"に焦点を当てた「演劇計画」のプログラミングにより、2ヶ月間の京都での滞在は、より刺激的で充実した創作環境でのクリエーションとなる。

創作ノート

なにもない、広い大地の、小高くなった右のほう。青い色のライオンが、遠く、ぽつんと座って、こちらを見ている。僕の中に見知らぬ風景がある。それ はたぶん、自分の内側と外側に連なる大地の一部。 大陸の輪郭は海と陸の境界線。近くで見るとその線は、よせてはかえす波でできている。風や海流や月の影響も受けながら揺り動き続けている。それは一人の人 の輪郭線のようにもみえる。 誰かの中の地平線と僕の中の地平線は、どこか遠くで繋がっているだろうか。語られ、記され、唄われて、歴史のなかで伝え紡がれてゆくことば。経験/記憶/ 感覚/思い/ヴィジョン。いくら説明しても他人には解りえない領土がある。そして本人にさえ説明のつかない、意識と無意識が浸食しあう場所。一人の「人」 のその存在感は、そんな場所からしのび寄るのではないだろうか。 多様な他者に囲まれて、その営みの中で生きている私たち。人は存在で、人は現象で、人の形はまるで...。 2人のダンサーと4人のミュージシャン、6人の男女。3組の夫婦と1組の親子と...、青いろライオン。

白井剛