宮沢章夫×高橋源一郎(10/14『トータル・リビング』ポスト・パフォーマンストーク)

14日(金)に幕を開けた『トータル・リビング1986-2011』。初日のトーク・ゲスト、高橋源一郎氏とのポスト・パフォーマンストークの模様を記録しました。なるべくネタばれは避けておりますので、観劇前の方もどうぞ!

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高橋:
こういうアフタートークとか、初めてみたものの十分後とかってすごくこわいの。
もしつまらなかったらどうしようって。
今回は、すごい、二回泣きましたよ!
(※どのシーンかはネタばれのため略)
久々に舞台で泣きました。


宮沢:
笑っていただきたかったんです、実は。

高橋:
感動して泣いちゃったんだけど、間違ってるのか。

宮沢:
どのように受け取られても・・という風には作っているつもりですが(笑)。

今月発売されたばかりの「群像」をさっそく読ませていただいて、
僕も、3月11日というか、その後ガラっと変わってしまった日本について書かざるを得なかったのですけれども
高橋さんも、タイトルが「恋する原発」ということで。
苛立っている、とか、怒っているのを、どう読み手に挑発してくるかと。

高橋:
ちょうど発表したばかりで、宮沢さんのこの劇も今日が初演で、
たぶん作っていた期間も......これ3月直後?

宮沢:
最後に読む言葉は、3月にやっていたワークショップを受けに来ていた人に街で言葉を拾ってくる課題を出したものです。

高橋:
ちょうどこの半年くらい、ここにいらしている皆さんもそうかもしれないですが、すごく嫌な感じというか、経験したことのない感じがあって、色んな所で色んな人が評論書いたり、新聞に記事が載ったり、いっぱいあるけどどうもピンとこないとずっと思っていて、これは自分でやるしか。誰のを読んでも納得できないというのがあって。

自分でやるとどうなるのかって書き出したら、すごく、不謹慎な方向にどんどんいっちゃったでしょう。
(トータル・リビングを)自分がちょうど3.11のあと考えてたことを思い出しながら見ていたので、あ、宮沢さんもやっぱりムカついてたんだなあ、とか。

宮沢:
そうですねえ。

高橋:
すごいこれ......、笑えるじゃないですか。
で、こういうとこで笑っていいのか、っていうところで、笑えるっていうのが、すごく気持ちがわかる。

びっくりしたんですけど、1986と2011、25年前がチェルノブイリだけど、同時に楽しかったって話でしょ。
その頃はよかったね、って思う。
小説で書いたのは2011年の話なんだけど、使ってる曲が、QUEENとか、80sのヒット曲なんだよね。
なんでかな?と思ったんだけど、すごい、楽しい・・でしょ
気持ちはものすごく怒ってカッカしてる。
で、曲はQUEENとかで、夜中に一緒に歌ってたり。

宮沢:
QUEENの曲に日本語の歌詞があててあって、歌えるのかなこれ、と思ったんだけど、歌えない。
「あれ、あわないな」

高橋:
あれ、うそです。すみません

宮沢:
そういうのも含めて、それをこっちに促す力で、高橋さんが怒ってるなあと逆に伝わってきましたけどね

高橋:
宮沢さんは何で怒ってたの

宮沢:
単純に自分自身にも腹が立つんですよね。
ちょっとたつと忘れるなあ俺っていう。
3.11で福島で事故が起こるまでチェルノブイリのことちゃんと憶えてたかっていうと、憶えてなかったよ俺って。
チェルノブリのときは、原発で語り合ったということがあるにも関わらずすぐ忘れる、私、について怒ってた。

高橋:
忘れちゃうよね本当に

宮沢:
逆に懐かしくなったりするわけですよね。
もうACのCMの響きが懐かしくなってしまうというのはどうなんだろう、と考えますよね。

高橋:
笑ってほしいっていったでしょ?
笑うしかないっていうのは、もともと僕の書いた「恋する原発」は、説明しておきますと、3.11震災のチャリティアダルトビデオを作るという神をもおそれぬ......

宮沢:
とんでもないですよね

高橋:
でもこれはもともと、10年前に9.11後に書いて失敗した小説。
群像に連載していたんです、「メイキングオブ同時多発エロ」っていう。
いいでしょ?(笑)
26回連載したから原稿用紙800枚くらい。
でも途中でどう書いていいかわからなくなった。
そんなに長く書いて自然消滅っていうのははじめて。

で、
それも、おなじで、9.11のチャリティAVをつくる話だったの。
懲りないよね~(笑)
ところが、
いくら書いても、つまんない。
おもしろそうでしょ?
絶対おもしろいと思って書いたの、でも書けば書くほど面白くなくなって。
長いあいだ理由が分からなかった。
7年間放りっぱなしにしていたのを書き直しているときに震災が起こって、
なぜあの小説がかけなかったか、わかった。

何でだと思う?

宮沢:
単純に考えると、距離感というのは大きい。

高橋:
そう
9.11もショックを受けて、作家として「書きたい」と思って書いたけど、いくら書いてもすごいシリアスな話になっちゃう。
シリアスじゃない頭で書いてるのに、書くと登場人物全員がドストエフスキーの小説みたいで。
「ちがうだろ」って。

今回3.11後に初めて不謹慎なことができた。
笑ったほうがいいって。

9.11は、他人事なんだよね。
どこからどこまでが自分のことで、どこからどこまでが他人事って、実はすごく難しい。
誰が決めるんだよって。
自分が決めるしかないんですけど。
これは距離がすごく近いところに来たときに、笑っても良いんだって。
そのことに気づくのに、10年。

宮沢:
それで、今回書けたと。
僕はそういうことって、特にテーマとして芝居でやろうと思ったことはないですが、
25年前とか、そのとき何故忘れたかについては、距離が遠かったということはあるし、
今回はもう少し別のアプローチができるようになったのでは、と。
僕も、本棚が倒れたりして被災者のひとりとして、関わることができるのではないか、と、逆に思った。
F/Tでやることは去年から決まっていたんですけど、
3.11が起こってから、何をどうしようかというと、演劇的にどう示していいか分からなかったのですが、
若者たちの芝居見に行くと、屈託なくやってるんですね。

高橋:
もっと直接的な?

宮沢:
いや、まったく、関係なくやるっていうところで、それが彼らのある種の政治との関わり、みたいな感じを受けて、
「あ、そういうやり方もあるか」って。
僕は僕なりに素直に向き合ったほうが、今の自分にとって正しい、正直なんじゃないかなと思った。

高橋:
すごく直接的というか、政治的っていうか。
だって本当にチェルノブイリ出てくるし3.11も出てくるし原発も出てくるし、
すごい直接的ですよね、こんなに直接的なのって、

宮沢:
はじめてですよ
社会的なことについて、日常で語ることはあっても、それを作品にしようという気持ちとか、
どうやって作品にできるか、その方法がわからなかったんですよね、
ただ今回は、カメラという別の視点を与えるとか、いろいろと考えていくことによって
これだったら直接でもいいかなって

高橋:
やりにくくなかったですか

宮沢:
別になかったです、それも不思議だったんですよね。
高橋さんも方法あったんじゃないですか、
チャリティAVっていう方法で、これか、この方法があったか。って。
不謹慎なほうからどんどん行くじゃないですか
僕にはその発想がなかったんですよね。
なんでなかったんだろうな

高橋:
それは多分、ぼくが実際にアダルトビデオの取材をして、てゆうか、監督してるんですよ。
知らなかった?
平野勝之さんと共同監督なんですが、「昼下がりの乱れ妻たち」っていう。
それが10年以上前だから、90年代後半くらいなんですけど、
すごく、おもしろい世界で、
こういう小劇場っていうか劇の世界に似たところがあるし、
純文学に似たところも。
ひとつは、すごく虐げられている。

たとえば、
作家が震災のチャリティで本を書く。→いいね!
劇団がチャリティで劇をやる→いいね!
チャリティでAV→ふざけるな!
これヘンじゃない?
芸術表現の最底辺なんです。

AVがすごいとか面白いっていうより、本当は...、小説がやらなきゃいけなかったようなこと。
本当のことって人に嫌がられるでしょ。
最近小説読んでも、あまり人に嫌がられない。
それは、当人が気づかないうちに、自己規制(だと思わずに)している。

僕はやっぱり、自分で書いてて思ったですけど、「お文学」は嫌いなんですよ。
変な言い方なんですけどね、下品なのかも、本当に。
そうじゃないと伝わらないもの......

宮沢:
すごくよく分かるんですけど、
ふざけたいんですよね。いつも。

高橋:
意味もなくね

宮沢:
ときどき真面目になっちゃう自分をどうしたらいいか、むしろそっちをどうやっておさえるか

高橋:
ほっといたら真面目になっちゃうでしょ
がんばってふざけなきゃいけないのって辛いよね

宮沢:
がんばらないとふざけられないんですよね

高橋:
だから自主規制って言ってるけど、周りの空気が規制させたり、権力が規制しているんじゃなくて、
本当に自分で真面目にやろうって思ってやってるんだよね。
そっちのほうがこわい。

だんだん自分のなかに、規制してもしょうがないというのが自然になってきたというのがあって、
それと3.11があって、
自分が本当にやりたかったことがやっとわかったという感じはする。

震災後書いたもので一番ショックだったのが「神様2011」で。
よっぽど川上弘美さんは怒ってたと思う。
怒りのあまり自分の手を打ち砕く決断の凄さみたいなの
「それに比べて俺はなんて保守的なんだ」って思って、
3.11があって原稿を直していた時に
最後に背中を押してくれたのは「神様2011」。
僕も、やりますっていう。

そしたら
宮沢さんもやってるなっていう、感じ。

大丈夫なの?こんなの。不謹慎だよ?
いいつけちゃうよ、ツイッター上で(笑)


今日の観てても、ビンゴのところとか、楽しそうですよね、みんな。
観てるほう楽しいんですけど作ってるほうも。

宮沢:
作るのは楽しいですよ

高橋:
こんな深刻なことを直接的に扱っているのに楽しそうにやっちゃって、酷い人だよね

宮沢:
そうですよね。許されないじゃないですか、ある種のメディアにおいては。
だから僕は演劇が好きなんだとしか言いようがないですよね
こんなに自由なメディアってないって思っています。


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