F/T マガジン

インタビュー:ウー・ウェングアン(呉文光)、ウェン・ホイ(文慧)(生活舞踏工作室)

----中国ではインディペンデントの立場というのは、公共の場で作品が発表できないなど非常に厳しい状況に置かれていますよね。ウーさんは1988年からインディペンデントフィルムの制作も続けています。これまで持続してこられた原動力はなんでしょうか。

  中国での芸術の環境は非常に悪い状態におかれているといえます。原因は様々あるのですが、作家自身が実験的な創作をあきらめてしまったこともひとつではないでしょうか。自己への挑戦、自らの置かれた環境に立ち向かう勇気を捨ててしまったのです。でも、私たちは創作し続けます。どんどん挑戦していきます。そういう思いが原動力になっているのでしょうね。

----今回、F/T10で初めて中国の作品に触れるという観客が大多数だと思うのですが、おふたりはどの部分に注目して欲しいと思っていますか。

  中国の歴史というのは簡単に掘り起こすことはできますが、みんな一緒になって「思い出そう」とはしないんです。『メモリー』の序幕で「思い出そうとすること」という言葉が登場するのですが、この「思い出そうとする」行為が非常に大切だと考えています。日本のみなさんは、1960年代後半から70年代前半の中国をどのようにとらえるでしょうか。おそらく、当時は苦境におかれていたんだ、悲惨だったんだと思われるかもしれませんね。でも、私自身当時を回想するとき、幸せな気持ちになるんです。それは何も当時がすばらしかった、よかったというのではなく、今よりもしかしたら自由だったのかもしれません。当時、幼かったということもありますけどね。 また、特に日本の若い方たちの中には、中国をしっかり理解できている人はあまりいないのではと思っています。ニュースなどのメディアを通じて、または中国茶など表面的な部分のみ理解していて、核心部分は理解できていないのではないでしょうか。それは逆に中国人が日本を理解できていないことと同じなんです。よく「中国と日本は一衣帯水の関係」といいますが、本当はより近い国のことをお互いにまだ理解できていないんですよね。

  当時、私たちは文化大革命という特殊な歴史を経験しました。その歴史を理解していただけたら嬉しいですね。ロングバージョンは8時間ありますから、みなさんそれぞれが舞台上の空気を感じとり、一人ひとり自分自身の記憶をひも解き、その記憶の中に入り込んでくれたらと思います。なにも舞台上の私たちとともに記憶を辿るのではなく、観客のみなさん各自が自分自身の歴史を辿ってみてください。

メモリー

振付:ウェン・ホイ(生活舞踏工作室)
ドラマトゥルク/映像:ウー・ウェングアン(生活舞踏工作室)
公演スケジュール:11月26日(金)〜28日(日)
会場:にしすがも創造舎