DRAMATHOLOGY / ドラマソロジーアーカイブ

風の鳴る音が静かに聞こえ始める。客電はついており、客席はまだざわざわとしている。舞台は奥からのびる光が差し込むだけで、暗闇、といってもいい暗さの中、ひとりの女優が舞台のまわりをゆっくりとした速度で、歩いている。あちこちから台詞のような声が聞き取れないくらいの音量で断片的に聞こえてくる。青いライトが客席を照らし、その中の七つの客席をスポットライトが射抜く。そこに座っていた老人たちが客席を立ち、客席から舞台へ出て行く。舞台へは通常「上がる」ものだが、むしろ客席から舞台へ「降りた」7人の老人たち。本作は、70歳以上のエルダー世代という条件で集められた地域住民とアーティストが共に舞台作品を制作する、というアイホール(兵庫県)のプロジェクトから生まれたものであり、出演者の老人たちは公演のために稽古をしているとはいえ、いわゆる役者の身体ではなく、少し危なっかしい足取りで降り立った。そして、舞台上の白い壁にプロジェクターで映像が投影され、その中で老人たちが死後のことを語る。その後、先ほどの女優が映像の中で入水自殺をし、いったん映像は終わる。