F/T テアトロテークみどころ解説4『外国人よ、出ていけ!』

テアトロテーク作品をディレクター相馬がプレ解説!第四弾は...

E.外国人よ、出ていけ! クリストフ・シュリンゲンジーフ / ポール・ポエット

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クリストフ・シュリンゲンジーフは、B級映画の監督から演出家になった異色の経歴の持ち主ですが、とりわけ常にその才能と悪戯でヨーロッパの演劇界を振り回し続けてきたお騒がせ演出家として非常に有名な人物です。しかしついぞ日本に来日すること叶わず、去る2010年8月に49歳の若さで他界しました。

今回F/Tテアトロテークのために上演する作品は、シュリンゲンジーフの短い生涯の中でも、恐らく最も世間を騒がせた7日間だったのではないでしょうか。2000年にウィーン芸術週間で展開された7日間のプロジェクトは、演劇史に残る事件として、永遠に記憶されるはずです。

2000年当時、オーストリアではハイダー党首率いる極右政党「自由党」が連立内閣の一角を占める事態となり、国を挙げて大きな議論が巻き起こっていました。極右政党が掲げる政策は当然「外国人排斥」。それに対抗するデモなどが各地で勃発。そんな揺れ動く政局や世論を背景に、シュリンゲンジーフは、なんと極右政策そのものを演劇として「引用」した、つまり、極右の言説である「外国人よ、出ていけ!」というスローガンに代表される論理や主張を、「演劇」の中に引き入れてプロジェクト化したのです。

見せ方の枠組は、当時ヨーロッパで爆発的な人気を誇っていたTV番組「Big Brothers」の形式をパロディ的に引用。本当にオーストリアに不法入国し、現在難民申請中の12名の「移民」(不法滞在者)たちをコンテナハウス に住まわせ、24時間監視=インターネット中継。視聴者からの人気投票によって、人気のない順番に退去を命じられ、最後に残った一人が本当にオーストリアの滞在許可を得られる、という設定。

オーストリアの文化的象徴とも言えるウィーン国立歌劇場の前で、「外国人よ、出ていけ!」とでかでかと書いた看板つきのコンテナで、アーティストが激しく一般市民を挑発する。当然市民はこれが演劇だろうと何だろうと真に受けて、抗議と怒号の嵐。極左から極右までの政治家、活動家、一般市民、外国人、思想家、アーティストらが登場し、コンテナの前で演説をしたり、半ば殴り合いに近い議論の応酬を繰り広げたり・・・それらの騒動自体が、演劇、ということになる...

...という感じで超エキサイティングな映像です。今回の2回上映のためだけに、舞踊評論家の古後奈緒子さんが日本語字幕をつけてくださいました。古後さんは当時ウィーン在住、このプロジェクトをリアルタイムにご覧なっていたとのこと。素晴らしい字幕です。

さらに、この映像上映の後、シンポジウム・テーマ4「演劇を拡張する」もぜひともご参加下さい。まさにシュリンゲンジーフは「演劇を拡張した」わけですが、それを今、私たちはどう引き継いでいくのか、考える場にしたいと思います。

そしてこれらの上映と議論が、ささやかながら、ついぞ日本にお招きすることができなかったシュリンゲンジーフさんへの追悼となることを願っています。

F/Tテアトロテーク

解説1弾『家族会議』
解説2弾『そのヨーロッパ人をやっつけろ!』
解説3弾『アリアーヌ・ムヌーシュキン:太陽劇団の冒険』
解説5弾『浜辺のアインシュタイン』